人材マネジメント
執行役員EVP CHRO
平松 浩樹
CHROからのメッセージ
社員のキャリアオーナーシップに基づく自律的な流動性を高めることで、事業戦略に連動した人材ポートフォリオを構築し、企業価値向上に貢献します。
パーパスの実現に向けた人材マネジメント改革を遂行
富士通グループは、お客様のDXをリードする存在である「DX企業」となることを2019年に宣言し、2020年にはパーパスを頂点にFujitsu Wayを刷新しました。DX企業としてパーパスを実現するために、人や組織はどのように変わらねばならないのか。人事部門内で、またCEOをはじめとする経営層と議論して集約したのが、「社内外の多才な人材が俊敏に集い、社会のいたるところでイノベーションを創出する企業になる」というHRビジョンです。このビジョンを具体化するための人材マネジメント改革を、過去3年間推進してきました。
一連の改革の柱と言える施策が、ジョブ型人材マネジメント、すなわち、特定のジョブ(職責)に伴う責任権限や人材要件を明確に定義し、そのジョブに人材を配置する制度の導入です。日本以外では一般的なこの制度を、日本国内にも段階的に適用しました。加えて、教育制度、評価制度と報酬制度についても従来の仕組みを大きく見直しました。制度を大きく見直すことで、自律的なキャリア形成に対する社員の意識を高め、会社=組織と社員の関係性、ひいては組織文化の変革を実現するという狙いがありました。
事業戦略と連動した人材ポートフォリオの構築に着手
諸制度の変革と整備を2022年度までに一気通貫で進め、2023年度は2023–2025年度中期経営計画(新中計)で打ち出した事業戦略と連動した人材ポートフォリオの構築に注力しています。具体的には、新中計のリソース戦略の下でグローバルに統一したロール(職種)を大枠として、事業ポートフォリオ変革を推進するために必要な人材ポートフォリオを事業部と共に検討しています。そこでは、変革の結果としての3年後、さらには2030年の事業ポートフォリオを担う人材ポートフォリオとはどのようなものかについて、議論を深めています。現状とあるべき姿をそれぞれ整理し、各ロールに必要な人材規模を算出したうえで、現状とのギャップを埋めるために必要な人材採用・育成計画の企画・運用を開始します。
こうした人材マネジメントに対するアプローチは、事業部門へのヒアリングを基に年度単位で人員計画を立案・運用していた旧来のそれとは大きく異なります。事業部門の戦略に人事部門としてコミットするという観点では大きなチャレンジですが、2030年のありたい姿に向けて、マテリアリティを踏まえ、中長期的な観点で採用や育成投資を行う枠組みが整ったという面では、これまでにない機会でもあると捉えています。
現状とあるべき姿のギャップを埋める2つのアプローチ
将来実現すべき人材ポートフォリオの定量的な枠組みが明確になれば、次のステップは現状とあるべき姿とのギャップを可視化し、どのように埋めるかを企画・実行することです。私たちは、トップダウンとボトムアップ、2つのアプローチが必要であると考えています。
トップダウンのアプローチでは、特定のロールに必要な知識とスキルを身につけるためのリスキリングを、ターゲット層に計画的に実行していきます。約8,000人の営業職社員を対象に2020年度に実施したビジネスプロデューサーとしてのリスキリングは、その先行例です。Fujitsu UvanceのVertical areasのオファリング提供に向けたコンサルティング人材の強化、あるいはデリバリー強化に向けた専門人材の拡充などの大きなポートフォリオ変革に関しては、トップダウンのアプローチで育成プログラムを実施し、スピード感をもって進める想定です。
一方ボトムアップのアプローチに関しては、将来の人材ポートフォリオを明確に設定すること自体も1つの手段であると考えています。当社グループが今後求める人材ポートフォリオとそれを構成するロールの解像度が上がるということは、将来的に身につける必要があるスキルが社員にとっても明確になることを意味します。自らの成長と活躍の機会を広げるためにどのようなスキルを身につければよいのか、道筋が見えるわけです。
キャリアオーナーシップと自発的流動性が人材ポートフォリオ構築のカギ
事業戦略と連動した人材ポートフォリオを構築し、しかも戦略の進行度や変更に合わせてポートフォリオを機動的に変え続けるには、人材の流動性が必須です。この流動性を、会社側が決める人材配置・異動で確保するだけでなく、社員の自発性からも担保することが、当社グループの価値創造に寄与するうえでは不可欠であると私たちは考えています。例えば、事業戦略の遂行上重要なプロジェクトがあるとしましょう。「そのプロジェクトに携わりたい」と複数の候補者が名乗りを上げた中からメンバーを選ぶことができれば、優秀でモチベーションの高いチームができる可能性も高まります。ただし、自発的に手を挙げる社員の絶対数や多様性が限られていては、ボトムアップのアプローチは早晩機能しなくなります。自律的にキャリアを形成する意識、いわゆるキャリアオーナーシップを私たちが重視するのも、このボトムアップのアプローチを機能させたいからです。
ポスティング(公募)制度を活用し、自らが実現したいキャリアプランに合わせた異動や上位ポジション登用に挑戦する人数が過去2年間で大幅に増えていることは、人材の流動性向上を前提にしたポートフォリオ構築の実現にとって意味ある変化です。ポスティングの応募者人数自体もさることながら、制度を活用して異動した上司や同僚が身近に増えたことをきっかけに、キャリアを自律的に考える人材層が広がっていけば、当社グループの組織文化はさらに変わり、事業戦略と人材ポートフォリオの機動的な連動性も高まるはずです。
従業員エンゲージメントの高い競争力ある企業に
人と組織の変革は、従業員エンゲージメントの結果にも表れています。前中計の目標として設定していた75ポイントには及ばなかったものの、2022年度の結果は69ポイントと、サーベイを開始した2019年度比で6ポイント改善しました。
サーベイの結果分析からは、エンゲージメントに対して大きな影響を及ぼす要因が上司とのコミュニケーションにあることが分かっています。人材の流動性が高まる中で、組織として成果を上げるためには、社員のエンゲージメントを高め、この組織でもっと挑戦をしたい、この組織だと成長できる、という状態をつくることが重要です。管理職に対しては、こちらも念頭において部下と定期的に1対1の対話を行うことを求めており、その際にコミュニケーションを円滑化するノウハウやツールも提供しています。
グローバルなDX企業としてお客様に持続的に価値を提供する、そのために必要な人材獲得の競争力を高めるという目的で、2023年4月に日本国内の社員の報酬の見直しを実施し、月額賃金を平均10%引き上げました。報酬レベルの引き上げと成長が実感できる環境づくりを通じたエンゲージメントの向上を図りながら、事業戦略と人材ポートフォリオの連動性を高め、さらに社員のマインドと組織文化の変革も継続し、当社グループの成長と企業価値向上に貢献していきます。
執行役員EVP CHRO
* Human Resource
平松 浩樹