代表取締役社長
CEO
時田 隆仁
CEOからのメッセージ
2030年のネットポジティブ実現へ
富士通グループのパーパスは、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」です。2023年5月、私たちがパーパスを実現するために必要不可欠な貢献分野を、「地球環境問題の解決」「デジタル社会の発展」「人々のウェルビーイングの向上」と明確化しました。また、2030年を見据えた価値創造の考え方として、「デジタルサービスによってネットポジティブを実現するテクノロジーカンパニーになる」というビジョンを設定しました。
ネットポジティブという言葉には、事業活動から生まれる負のアウトプットを上回る正のアウトプットをつくりだすという私たちの決意を込めています。1つの例がスーパーコンピュータです。コンピューティングパワーの増強は電力消費の拡大を伴いますが、一方で、飛躍的に進化したコンピューティングパワーを活用すればGHG排出量削減に貢献するイノベーションも生まれます。私たちは事業を通じてテクノロジーとイノベーションを駆使することで、お客様とその先に存在する社会に対しポジティブなインパクトを生むことを目指します。
新たなマテリアリティの策定はステークホルダーへのフィードバック
「地球環境問題の解決」「デジタル社会の発展」「人々のウェルビーイングの向上」の3分野を、必要不可欠な貢献分野(マテリアリティ)として定めました。2020年にパーパスを軸にFujitsu Wayを刷新して以来進めてきた経営を改めて振り返り、私たち自身が社会にどのような価値を提供すべきなのか、また、お客様が私たちに何を期待しているかに本格的に切り込もうという考えが、2023年のタイミングでマテリアリティを特定した背景にありました。
特定に当たっては、独りよがりにならないという点を重視しました。お客様、社員、株主を中心に多様なステークホルダーの皆様から広くヒアリングし、その結果を基に様々な社会課題の中から富士通グループだからこそ取り組むべき分野について議論を深めました。こうした議論を経て特定したマテリアリティに加え、その検討プロセスについても社外取締役・監査役の賛同を得たことは、私自身にとっても心強いことでした。
2030年のネットポジティブ実現は、価値創造に対する富士通グループのコミットメントであると同時に、マテリアリティの特定に協力していただいたステークホルダーの皆様へのフィードバックであるとも考えています。Fujitsu Wayでは、大切にする価値観として「挑戦、信頼、共感」を掲げています。「共感」をベースに目標、目的が定められたことは大きな意義があり、CEOとしてステークホルダーと真摯に向き合いながら、当社グループを率いていく決意を改めて固めています。
2020–2022年度中期経営計画(前中計)を振り返って
私たちは2030年に目指す姿の実現に向け、2025年度までに達成すべきマイルストーンと戦略を2023–2025年度中期経営計画(新中計)として発表しました。そのご説明に先立ち、2022年度までの私たちの到達点と課題をご報告します。
2022年度の連結業績は、営業利益が過去最高を更新し営業利益率も9.0%に達しました。しかし、前中計の財務目標として掲げたテクノロジーソリューションの売上収益、営業利益率はいずれも未達となりました。
半導体不足や為替レートの大幅な変動など、売上収益やコストに影響を及ぼす外部要因が発生したことは確かです。しかし、データドリブン経営を迅速に進め、需要予測や在庫管理を精緻に実行すれば、そうした影響は低減できたはずです。サービスよりもサプライチェーンリスクの影響を受けやすいハードウェアプロダクトの伸びを想定した計画であったことも問題でした。こうした課題は、後述する新中計に反映しています。
一方で、当社グループの中長期的な成長を牽引するソリューションとしてFujitsu Uvanceを世に出したことは、事業面での大きな成果です。また、非財務目標のうち、お客様ネット・プロモーター・スコア(NPS®)*1とDX推進指標で目標を達成したことは、非財務面での取り組みが結実したものです。従業員エンゲージメントについては、目標値に届きませんでしたがスコアは改善しており、日本国内におけるジョブ型人材マネジメントへの移行をはじめとする制度・組織文化の変革を進め、当社グループが大きく変貌したという実感を私は持っています。コロナ禍の混乱の中、変革の目的を正確に理解し、積極的に変化に飛び込んでくれた社員には感謝しかありません。
*1 ネット・プロモーター®、NPS®、NPS Prism® そしてNPS関連で使用されている顔文字は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。
4つの重点戦略で成長を追求
新中計で目指すのは、2030年に目指す姿の実現とネットポジティブの最大化に向けた成長です。このゴールの達成に向け、事業モデルと事業ポートフォリオの変革、お客様のIT資産のモダナイゼーションの確実なサポート、海外ビジネスの収益性向上という3つのテーマを掲げています。さらにこの3つのテーマの推進のために、事業モデル・ポートフォリオ戦略、カスタマサクセス戦略/地域戦略、テクノロジー戦略、リソース戦略という4つの重点戦略を策定しました。これらの戦略を実行し、2025年度に売上収益4兆2,000億円、調整後営業利益*2 5,000億円、調整後営業利益率12%、コア・フリー・キャッシュ・フロー*3 3,000億円、1株当たり親会社所有者帰属当期利益(EPS)の年平均成長率14~16%の財務目標と、GHG排出量削減、お客様NPS®、社員1人当たり生産性、従業員エンゲージメント、および女性幹部社員比率の4項目の改善という5つの非財務目標の双方を達成します。
*2 営業利益から事業再編、事業構造改革、M&A等に伴う損益ならびに制度変更等による一過性の損益を控除した、本業での実質的な利益を示す指標(従来、本業利益として表記していたものと同一)。
*3 事業再編、事業構造改革、M&A等に伴う一過性の収支を控除した、経常的なフリー・キャッシュ・フロー。
事業セグメント変更で成長領域を明確化
事業モデル・ポートフォリオ戦略の一環として、2023年度から事業セグメントを変更することを決定し、従前のテクノロジーソリューションを、サービスソリューションとハードウェアソリューションに分割しました。サービスソリューションの中には、グローバルソリューションと、国内外の市場に向けてサービスビジネスの提供を担うリージョンズ(Japan、海外)が含まれます。
セグメント変更の狙いは、成長戦略および組織体制と、情報を開示するセグメント区分を一致させるマネジメント・アプローチを、より厳密に実行することです。成長を牽引するFujitsu Uvanceを軸としたサービスソリューションをほかの事業と明確に区分することで、私たちの成長性の実力をステークホルダーに対して明示していきます。これは、ハードウェアの部材不足による影響もサービス・ソリューションビジネスを含むテクノロジーソリューションに織り込まれたことで、成長領域の成果が分かりづらくなってしまった前中計の反省に立ち、私たちが出した答えでもあります。
Fujitsu UvanceはVertical areasの成長に注力
新中計では、サービスソリューションを中心に成長と収益性拡大を加速します。そのドライバーとなるのが、Fujitsu Uvanceです。Fujitsu Uvanceは社会課題を解決するクロスインダストリーの4分野であるVertical areasと、それらを支える3つのテクノロジー基盤としてのHorizontal areas、合計7つのKey Focus Areasから構成されます。2023年度期初までに全7 Key Focus Areasにおけるオファリングの整備にめどを付けました。今後3年間は、特に4つのVertical areasのオファリングに磨きをかけて高い付加価値を創出すると同時に、コンサルティング力の増強、戦略的アライアンスの発展、テクノロジー基盤の強化、人材の育成とリスキリングへの投資を実行し、中長期的な成長の道筋を固めます。
Fujitsu Uvanceの特徴は、社会課題を起点としていること、クロスインダストリーであること、そしてクラウド上で展開するデジタルサービスであることです。例えば、当社は病院向け電子カルテ市場で高いシェアを誇りますが、現在のサービスは、個別の病院内で完結する単独のシステムが主流です。これを、病院間での連携や地域医療および自治体サービスへの活用、さらには創薬と、業種あるいは業界を超えて価値を創出するオファリングにしなければ、Fujitsu Uvanceとは呼べないのです。
これまで当社グループの事業基盤は、個々のお客様の課題を解決していくことでした。その経験があるからこそ、私たちにはお客様とお客様の間、いわゆる業際に存在する大きな「空白地帯」が見えています。Fujitsu Uvanceがクロスインダストリーであるのは、まさに、この空白地帯にある事業機会を創出するためです。サプライチェーンの最適化やカーボンニュートラルの実現など、個別企業の事業だけでは実現しえない社会課題への解決に貢献するサービスを提供することで、従来とは異なるレベルの成長と2030年に向けた事業ポートフォリオ変革を実現します。
空白地帯に存在する事業機会を捉えるには、お客様のニーズや課題に対する深い理解に基づく提案が必要です。このため、新中計のカスタマサクセス戦略の下でお客様の課題を解決するコンサルティング力を拡充します。具体的には、コンサルティングスキルを持つ人員を、2022年度末の2,000人から2025年度までにテクノロジー軸とビジネス軸で合わせて1万人に増強します。
使命感を持って取り組むモダナイゼーション
Fujitsu Uvanceを中心としたオンクラウドサービスが成長を牽引する一方で、お客様のIT資産活用を支えるサービスにも注力します。オンプレミスと呼ばれるお客様固有のIT資産をクラウド等へシフトする、いわゆるモダナイゼーションの支援がその柱です。
当社グループは、国内で多くのお客様にご利用いただいているメインフレーム、UNIXサーバの販売・保守の終息を決定しています。保守終了までの期間は安心してご利用いただけるよう万全のサポートサービスを提供する一方で、お客様の持続可能な経営に向けてモダナイゼーションを推進する使命が私たちにはあると考えています。2025年度までの3年間でデリバリー体制を強化するとともに前中計期間に改善した生産性をさらに引き上げ、2026年にピークを迎えると想定するモダナイゼーション需要に万全な体制で対応します。
グローバルに通用するオファリングで収益性を強化
地域戦略では、リージョンズ(Japan)で2025年度の調整後営業利益率19%という高い目標を掲げ、Fujitsu Uvanceとモダナイゼーションを推進します。その他のリージョンについては、Fujitsu Uvanceを中心としたグローバルなオファリングの提供を拡大することで、2022年度の調整後営業利益率で1%という低位にあった収益性の向上に取り組みます。
日本以外のリージョンでは前中計期間中にサービスビジネスへのシフトを進め、特にAmericasにおいて大きな構造改革を成功させました。また、グローバルに通じるオファリングがあれば成長の突破口が開けることは、2022年度のFujitsu Uvanceの実績に表れています。7つのKey Focus Areasの中で最も売上収益を計上したのはHorizontal areasのDigital Shifts、つまりデジタルワークプレイスの領域です。これは当社グループにおいてWork Life Shiftという名称で進めてきた社内変革に基づき、その技術やノウハウを社外にも提供しているもので、特にその成長を牽引したのが海外市場だったのです。富士通グループ全体の成長スピードに追いつくため、日本以外のリージョンにおいてもFujitsu Uvance、特にVertical areasのオファリングの提供に注力し、一段、二段ギアを上げて成長を加速させます。
近年、情報セキュリティインシデントやシステム品質問題が発生したことを受け、私が委員長を務めるリスク・コンプライアンス委員会の機能強化を含め、全社を挙げてセキュリティ・品質管理体制強化に取り組んでいます。権限を強化した最高情報セキュリティ責任者であるCISO(Chief Information Security Officer)のもとで情報セキュリティ対策を強化するとともに、新たに任命した最高品質責任者であるCQO(Chief Quality Officer)のもとでシステム品質の改善・向上も図り、再発防止に取り組みます。
5 Key Technologiesと実践知が付加価値提供の源泉
私たちは、Fujitsu Uvanceを支えるKey Technologiesとして5つの技術領域を定め、テクノロジー戦略の下で研究開発リソースを集中してきました。その1つであるAIは、近年目覚ましい進化を遂げ、企業、消費者が活用するサービスとして急速に広がっています。このようなテクノロジーの隆盛は、私たちにとって歓迎すべき事象です。それは、「まずは先端技術を使ってみよう」という新しい技術変革を積極的に受け入れ試す機運が醸成されるからです。
当社グループは、30年以上にわたる研究実績を持つAIはもちろん、世界最高レベルのコンピューティングパワー、高精度なシミュレーション、大規模社会インフラも支えるネットワーク、サイバーセキュリティなどの技術を自ら開発し、特許を含めた自社の知的財産として保有しています。デジタルサービスに不可欠な技術力をこれほど幅広く持つ企業は、世界でも稀であると自負しています。
私たちは、こうした技術を価値に転換するための実践知も蓄積しています。例えば、OneFujitsuプログラムの下で、業務改革を進めながらFujitsu Uvance で提供しているBusiness Applicationsをグループ内に導入しており、そこから得た学びと知見をお客様にサービスを提供する際のリファレンスモデルとして活用しています。技術開発と自らの変革の実践を通して得たケイパビリティは、当社グループの競争優位性であると考えています。
事業戦略に連動した人材ポートフォリオの変革
事業ポートフォリオの変革を加速し成果を出すには、人的資本やデータの活用を可能とする強固な経営基盤が必須です。リソース戦略として、人材ポートフォリオの変革とデータドリブン経営の進化を継続します。
特に人的資本経営は、CEOとして富士通グループという大きなチーム、そのチームを構成する全メンバーを取り残さずリードする役割を負う実感と共にエネルギーを注いでいることの1つです。前中計期間中に着手した一連の人材マネジメントの変革を通じ、一人ひとりのマインドや組織文化が変わってきていることは、従業員エンゲージメント調査の結果にも表れています。伝統的な日本企業の人事の仕組みである「メンバーシップ型」でなくても、社員の働きがいを醸成できることに、大きな手応えを感じています。人的資本経営やデータドリブン経営の成功モデルとして提示できるよう、人材とITを軸にした経営基盤の高度化に取り組みます。
サステナビリティトランスフォーメーションを支えるパートナーとして
カーボンニュートラルをはじめグローバル社会のサステナビリティを前提とする新たな経済システムの構築が求められる中で、企業が持続的に成長するには、デジタルトランスフォーメーションはもとより、従前とは異なる価値創造を実現するサステナビリティトランスフォーメーションを遂げねばなりません。私は、2025年度に新中計を完遂した当社グループが、Fujitsu Uvanceを入り口に、多くのお客様をサステナビリティトランスフォーメーションへといざなう姿を描いています。新たな経済システム構築に積極的に参画し、価値創出に挑戦するという決意と覚悟を持ってサステナビリティトランスフォーメーションに踏み出すお客様を強力にサポートすることが、テクノロジー企業としての私たちの使命であり責任でもあります。
新中計の4つの重点戦略を通じて財務・非財務の目標を達成し、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」企業であることをグローバルに示していく決意です。当社の挑戦に、ぜひご期待ください。
代表取締役社長 CEO
時田 隆仁