代表取締役副社長
COO
古田 英範
COOインタビュー

古田 英範 代表取締役副社長 COO

2023-2025年度中期経営計画(新中計)の目標達成に向けた取り組み、特に、リージョンズ(海外)の事業基盤の変革を掲げる地域戦略のポイントと、Fujitsu Uvanceの成長シナリオの前提について、COOに聞きました。

Q. 新中計の目標達成に向けた最大の難関は何でしょうか。

A. 財務目標の達成に向けてカギを握るのは、Fujitsu Uvanceの成長とデリバリー変革を中心とする事業モデル・ポートフォリオ戦略です。しかし、難易度という観点では、地域戦略、特にリージョンズ(海外)における事業モデル・ポートフォリオ戦略の実行を挙げねばなりません。
これまでリージョンズ(海外)は、マネージドインフラストラクチャーサービス(MIS)と言われる、サーバやネットワークなどのITシステムの監視・運用・保守に関わる事業を収益基盤としていました。一方で当社グループは、Fujitsu Uvanceを核とするデジタルサービスの拡大を経営戦略として打ち出しています。これに合わせ、新中計ではMISに代わってビジネスアプリケーションサービス(BAS)と言われるサービス事業への集中を加速する地域戦略を掲げています。
海外のMISは厳しい競争にさらされており、特に高いコスト競争力を持つインド系ベンダーとの差異化は極めて難しいというのが現状です。この状況は今に始まったことではなく、リージョンズ(海外)のMISからBASへの転換は、過去10年にわたって当社グループの戦略的課題であり続けています。新中計の地域戦略には、この状態にこれ以上とどまれないという、私たちの覚悟を込めています。

Q. 長年解決できなかった課題を、どのように解決するのでしょうか。これまでとは何を変えるのでしょうか。

A. Americasリージョンの事業ポートフォリオ変革を、リファレンスモデルとします。同リージョンでもMISが事業の中心でしたが、2020年度にハードウェアの販売を中心とするプロダクト事業、小売業向け機器、ホスティング、保守サービスなどから撤退し、サービス事業に特化する事業ポートフォリオ変革を断行しました。この結果、2021年度に黒字化を実現しました。
Americasリージョンはもともと事業規模が小さいこともあり、MISからの転換が進まない根本的な理由と、どのような打ち手が必要かを詳細に分析することができました。この分析に基づき、プロダクト事業からの撤退、大手戦略顧客へのリソース集中、デリバリーの標準化という一連の変革をスピーディに実行したAmericasリージョンでの経験をモデルとして、EuropeリージョンとAsia PacificリージョンにおいてもMISからBASへのシフトを加速します。
これまでと変えるのは、本社のビジネスグループによるリージョンズへの統制と支援のレベルです。すでに2022年度に、各リージョンが持っていたソリューション開発機能をグローバルビジネスソリューショングループに集約しました。リージョンズ(海外)から見ると、ソリューションをお客様に提供するにはビジネスグループとの連携が必須であるわけです。2023年度はこの連携をさらに徹底してリソースを最適配分するとともに、ビジネスグループ側から少人数のチームを各リージョンに派遣して、リージョンズの現場ニーズの集約とビジネスグループからの支援を調整する仕組みを導入しています。

Q. 構造改革の成果としては、リージョンズ(海外)の新中計の財務目標が低くはないでしょうか。

A. Americasリージョンをリファレンスモデルとするとは言え、売上収益ベースでの事業規模がAmericasリージョンの約10倍のEuropeリージョン、同約3倍のAsia Pacificリージョンでは、構造改革のめどがつくまでに一定の時間を要すと見ています。まずは構造改革を進め、その後に高付加価値のサービスソリューション提供を通じて成長を目指すというステップを踏む想定で、2025年度のリージョンズ(海外)の営業利益率3.3%という目標を設定しました。
EuropeリージョンはFujitsu UvanceのHorizontal areas、特に、Hybrid IT、Business Applications、 Digital Shiftsの拡販で2022年度に一定の実績を残しました。とはいえその中身を見ると、他社サービスとの差異化が十分になされず収益性が低い案件がやや多かったと分析しています。MISからBASへの転換と併せ、お客様対応体制の再編成や成長領域に対応可能な人材のリスキリングなど、Fujitsu Uvanceのオファリングの付加価値を最大化する仕組みを新中計期間中に構築します。

Q. 2023年度にようやくVertical areasのオファリングがそろった状況のFujitsu Uvanceは、お客様に受け入れられ成長を牽引し得るでしょうか。

A. Fujitsu Uvanceの成長シナリオには、事業を通じたお客様とのつながり、いわゆる「エコシステム」を織り込んでいます。Fujitsu Uvanceの提供価値が1社のお客様に認められれば、そのお客様のお取引先へと顧客基盤が広がる可能性は高いと、私たちは考えています。
具体例を挙げましょう。当社グループは、高機能繊維・複合材料や電子材料などを製造する大手化学メーカー帝人株式会社と、リサイクル素材の環境負荷情報を収集し、バリューチェーンを通じてトレースするプラットフォームを共同で開発しています。プロジェクト開始から約6か月後には、ドイツの自転車メーカー2社が、トレーサビリティの実現やカーボンマネジメントへの活用による価値の創出を目指して、このプラットフォームの実証プロジェクトへの参加を決めました。
この事例が示すように、環境負荷削減のような取り組みは1社だけでは完結しないため、お客様やそのお取引先にとってもエコシステムが広がるメリットが大きいのです。2023年度にサービス事例を積み上げ、それを2024年度以降に複数の商談につなげることで、Fujitsu Uvanceのお客様を拡大していきます。

Q. 事業成長の前提となるお客様からの信頼確保に向けた取り組みの現状を教えてください。

A. まず、システム品質問題と情報セキュリティインシデントでご迷惑をおかけした関係者の皆様に深くお詫び申し上げます。
2021年度の大規模システム障害を受け、当社グループ内のITガバナンスの仕組みを見直し、ミッションクリティカルなシステムの総点検を通じた脆弱性の洗い出しと対策、グローバルな情報セキュリティ対策強化を進めました。その対応を進めている最中に情報セキュリティインシデントとシステム品質問題が再度発生した背景には、リスクと備えに対する想像力の不足があると猛省しています。2023年度からは、CISO(Chief Information Security Officer)に加え、CQO(Chief Quality Officer)を選任し、より機動的な判断と迅速な対応が可能な体制づくりを進めるとともに、システム品質・情報セキュリティ管理の高度化に向けた具体的な改善施策を展開しており、お客様からの信頼回復にグループを挙げて取り組んでいます。