【CES2025】グローバルイノベーションの最前線”未来へ向けたビジネスチャンスとは?”
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Report|2025年2月19日
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米国ラスベガスで開かれた世界最大規模のテックイベント「CES2025」。富士通は、このイベントを毎年ウォッチしている2人のエキスパートを招いたトークセッションを開き、CESから見えてきたテクノロジーの未来について議論しました。
CES2025で見えてきたトレンドは
CESは米国ラスベガスで毎年開かれている世界最大級のテクノロジー見本市で、今年2025年は4500社以上が出展し、およそ14万人が参加したという大規模なイベントです。
立教大学ビジネススクールの田中道昭教授と株式会社HEART CATCHの西村真里子氏はこのイベントを長年ウォッチしているエキスパートです。富士通は、この2人を招いたトークセッションを開催し、富士通の執行役員EVPでCMOの山本多絵子を併せた3人が、イベントを訪れることで見えてきたトレンドやテクノロジーの未来についてパネルディスカッションで議論しました。
イベントではまず、西村氏と田中教授がそれぞれ現地で取材した注目ポイントを紹介しました。
西村氏は、CESの主催者が今年のテクノロジートレンドを示したセッションの内容について報告し、「年齢の高い人たちは、新しいテクノロジーが登場しても安心できるまで様子を見る傾向がある一方で、Z世代の若者は新しいテクノロジーをいち早く試してみる風潮があることから、企業は、テクノロジーへの関心と購買意欲が高いZ世代やアルファ世代を注視していくべきだというトレンドが示された」と話しました。
また、AIに対する認識の変化も示されたと言います。西村氏は、「AIによって人間の仕事が奪われてしまうことに対する不安や、AIの性能が人間の知性を超える”シンギュラリティ”の可能性も指摘される中、以前はAIに対して不安を抱く人が多かったものの、この1年でその懸念は払しょくされたというデータが示され、むしろAIを積極的に活用していこうと話されていたことが印象的だった」と述べました。
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続く田中教授は、「今年は生成AIが誕生したとき以上のインパクトがあった」と切り出しました。そして、「NVIDIAの基調講演では、『AIエージェントの時代』という表現があったが、これは未来のことではなく今まさに起きていることで、富士通を始めとするテクノロジー企業が中核のプロダクトとして提供を始めているのがAIエージェントだ」と述べ、AIエージェントに関する製品やサービスがCESの話題の中心だったことを報告しました。その上で、富士通が提供する「Fujitsu Kozuchi AI Agent」に触れ、「AIは対話型から自立型へと発展している。これは未来の話だと思っている人もいるかもしれないが、現在進行形で浸透し始めていて、企業はAIエージェントを中核に据えて、色々なことを考え直さなくてはならない」と指摘しました。

CESから考えるテクノロジーの未来
イベントでは、CESで得られた知見をもとに、3つのテーマでパネルディスカッションが行われました。
AI が身近なインフラに ~私たちの生活や働き方はどう変わるのか?~
西村:テレビのリモコンにAIのボタンが登場したり、航空会社が家から目的地までの最適な道のりを示すAIコンシェルジュサービスを紹介していたり、AIが生活の中にまで入ってきているということを感じたのが今回のCESでした。田中教授は、生活という視点ではどういう点が気になりましたか。
田中:中国の企業TCLがAI化・DX化したテレビや冷蔵庫、洗濯機などを紹介していました。危機感を持ったのは、中国のメーカーが家電メーカーとして家電に真面目に取り組み、AI化・DX化で先行してしまったということです。2~3年前からスマート化やDX化というトピックスは出ていましたが、多くの日本企業ではコンセプトに留まっているのが現状です。しかし、TCLはすでに市販しています。家電がAI化していることによってどのようなデータが集積されているのか。そして、どのような最適化ができるのか。TCLはハードだけではなく、ソフトやサービスも提供していて、今回一番インパクトを受けた会社です。
西村:私たちの働き方はどう変わっていくのでしょうか。
田中:企業がAIエージェントを導入することを中核に据えて戦略や組織の見直しを図る必要があると思います。AIエージェントを導入することで、仕事の仕方が変化するわけですよね。業務の初期段階からAIエージェントに情報をインプットすることで、意思決定のスピードと正確性が向上していきます。そして、社員ごとにAIエージェントがつくことになれば、たとえば役員のAIエージェントの間で事前に役員会を開くことができ、そこで様々なシミュレーションが行われます。そして、実際のCxO(組織の責任者)がその内容を踏まえて決定を行うようになります。そうなったときにより重要なのは、我々人間がどういうスキルを身に着けるべきなのか、人間がやるべき仕事とは何なのかを真剣に考え、危機感を高めていくことです。
山本:AIによって仕事が奪われる、置き換えられるということが言われ続けていますが、富士通のテクノロジーは、「Human Centric 」というコンセプトで、これを軸に開発を行っています。富士通は「Fujitsu Kozuchi AI Agent」を発表していますが、これは、人がすべて仕様を作り、人と協調して作業を行うように 作られています。たとえば、すでに活用されている会議エージェントは、会議中に話される様々な内容を踏まえてエージェントが提案をするなど、あくまでサポート役に徹します。あるいは、映像解析型のエージェントは、例えば、工場の中で映像と安全規則等のドキュメントデータを元に現場監督のように危険を検知し、人が見ていない場合でもインシデントを報告することができます。あくまでAIエージェントはサポート役であり、人により定められた仕様の中でタスクを実行しています。どうAIを使っていくのか。正しくAIを使うことが基本となります。
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サステナビリティとテクノロジーの融合~トレンドとしてのサステナビリティは終わるのか?~
西村:続いて、”サステナビリティは終わるのか”という刺激的なテーマですが、これはどういうことかと言いますと、テクノロジーあるいはAIが賢くなることによって、人間がサステナビリティ自体に取り組まなくても、家電や工場が当たり前のようにCO2の削減などをしてくれるようになるのではないかという話です。サムスンやハイセンスなどは、AIなどのテクノロジーが環境に配慮した生活ができるようなサポートしてくれるという内容の展示をしていました。
一方で、この1月は米国でトランプ政権が発足したことで、今まで私たちが地球環境のためにやってきたことと違う方向に進んでいくような危惧を持っていますが、田中先生はどう捉えていますか。
田中:トランプ政権が誕生した初日にパリ協定からの離脱が表明され、気候変動対策やダイバーシティなどが危機に瀕しています。特にダイバーシティやインクルージョンという点においては色々な企業がギブアップしています。これはまさに、企業の本気度が問われているということだと思います。つまり、これまで本気でサステナビリティやダイバーシティに取り組んできたのかどうかです。バイデン政権の4年間に、あなたの会社が周りに言われたからサステナビリティに取り組んでいたのならその旗を降ろせばいいし、本気でやっていた会社は旗を降ろさないでしょう。皆さんの会社は本気でやってきたと思うので、できれば旗は降ろしてほしくないですし、この4年間の本気度が試されていると思って取り組みを続けていただきたいです。
西村:まさに判断が問われているところだと思いますが、山本さん、富士通としてはサステナビリティとどう向き合っていくのでしょうか。
山本:富士通は昨年、世界の800社の経営者に対する調査を行いました。サステナビリティの変革の度合いなどを調べたのですが、その中でもサステナビリティをリーダーとして推進している「チェンジメーカー」と定義した企業を深掘りしていったところ、サステナビリティの取り組みを進めれば進めるほど業績がよくなるという相関関係があることがわかりました。田中教授のおっしゃる通り、本気でサステナビリティの取り組みを進める企業だけが生き残っていくのではないかと思います。
田中:富士通はサステナビリティの取り組みと利益を上げることを両立している企業をチェンジメーカーと定義しているわけですが、調査レポートにはチェンジメーカーになるためにはどうしたらいいのかということも書かれていますので、ぜひお読みいただけたらと思います。
更新すべきセキュリティの定義~データ×AI活用と安心をどう両立させるか?~
西村:3つ目のテーマは「更新すべきセキュリティの定義」とありますが、AIのその次のフェーズとしては必ずセキュリティについて語られていました。たとえば、家庭内のデータの中には、最も守られなくてはならないようなプライバシーに関わる情報が多くありますよね。そういうデータをしっかり守るというような内容が強調されていました。そうしたことを踏まえて田中教授にお伺いしますが、どのようにセキュリティを考えていけばいいでしょうか。
田中:まず、CESで紹介されていた中からAIエージェントのメリットについて触れると、エージェントに目的だけを提示したらそれだけで商品の購入などをしてくれるということです。AIエージェントがブラウザをいじって予約をしてくれます。それから、これまで色々な会社で分散されたデータを自ら取りに行ってくれるということがあります。これらは大きなメリットですが、その分、やはりプライバシーやセキュリティの問題が万全ではないとリスクが顕在化してしまいます。ですから、生成AIによって色々なリスクが増大してきましたけれども、自律的に動くAIエージェントの時代になれば、さらに潜在的リスクが顕在化したときの影響は増大していくということです。
西村:山本さんはこれについてはいかがでしょうか。
山本:富士通は、Cohereというカナダのスタートアップ企業と提携し、Takaneという大規模言語モデル(LLM)を開発しました。これは、OpenAIがオープンな環境の中で生成AIを提供しているのに対して、セキュアなプライベート環境の中で、特化型のAIを提供していくというものです。ですので、こういったセキュリティのリスクを感じておられる方にはぜひ使っていただけたらと思っています。また、生成AIだけでなく、サイバー攻撃を受けたなどという話は色々なところで耳にしますが、このような課題に対し、富士通は、マルチAIエージェントセキュリティを開発しました。この技術はサイバーツイン上で、攻撃や防御などのセキュリティに特化したスキルやナレッジを持つ複数のAIエージェントを連携させることで、新たな攻撃に対しプロアクティブなセキュリティ対策が実現できるというものです。 このように、セキュリティに関しても敏感に対応しています。
西村:今のお話を聞いていると、AI自体の進化が激しいので学ばなくてはいけないことがたくさんありますが、それに対してセキュリティという点も両輪で学び、採用していかなくてはならないと思いました。やらなくてはならないことがたくさんありますね。本日はありがとうございました。
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山本 多絵子
Taeko Yamamoto
富士通株式会社 執行役員 EVP
CMO(最高マーケティング責任者)
2020年4月、理事兼CMOとして富士通入社。2022年に現職に就き、全社のブランディングやマーケティング変革に取り組んでいる。
大学卒業後に新卒で三菱商事にシステムエンジニアとして入社。その後、スタートアップを経て日本IBM、日本マイクロソフトでマーケティングのプロフェッショナルとしてキャリアを積んだ。
2019~2022年度まで日本ハンドボール協会理事も務める。
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田中 道昭
立教大学ビジネススクール 教授
シカゴ大学ブース・スクール・オブ・ビジネスMBA(企業戦略・ファイナンス・計量経済専攻)。専門は企業・産業・技術・金融・経済等の戦略分析。日米欧の金融機関にも長年勤務。主な著作に『GAFA×BATH』『2022年の次世代自動車産業』『アマゾン銀行が誕生する日—2025年の次世代金融シナリオ』『ソフトバンクで占う2025年の世界』『モデルナはなぜ3日でワクチンをつくれたのか』などがある。テレビ東京WBSコメンテーター。2023年より富士通のマーケティング戦略アドバイザーを務めている。
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西村 真里子
Mariko Nishimura
株式会社HEART CATCH 代表取締役 プロデューサー
日本IBM ITエンジニアとしてキャリアをスタート後、アドビシステムズのフィールドマーケテイングマネージャーに従事。2014年株式会社HEART CATCH共同創業。テクノロジー&クリエイティブのキャリアを活かし、企業や自治体の新規事業案件の企画に多く携わる。
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