世界最大規模のテックイベント「CES2025」最新レポート! AIエージェントが描く2025年の世界

イベントの様子

Report |2025年1月9日

未来を形作る世界最大のテクノロジーショーCES2025に現地ラスベガスから参加している。強烈なワクワク感や期待感に包まれている心境だ。今年のCESで最も注目されたトレンドの一つが人工知能(AI)だ。それは、まさにAIの進化がいよいよ次のステージに進んだことを実感させるものだった。

AIが「デジタル共存」の中心に

CES2025の開幕を前に行われたセッション「CES2025 Tech Trend to Watch(注目すべきテクノロジー・トレンド)」でも、AIは、サステナビリティやモビリティとともにトレンドの中核を占めた。

パンデミック後、デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、リアルとデジタルの境界は曖昧になり、人とテクノロジーの相互作用はこれまでにないレベルへと深化した。CES2025では、これを「デジタル共存(Digital Coexistence)」という概念で主要テーマとして提示し、AIをその中心に位置づけた。このテーマのもと、様々なAI関連企業が出展し、AI用半導体、センサー、クラウド、サイバーセキュリティ、ヒューマノイドロボット等などを含む実に多岐にわたるプロダクトやサービス、ソリューション、個々のテクノロジーが展示された。消費者に身近な分野では、AIが組み込まれたスマホやPC、テレビ、自動車、さらにはスマートグラスなどが進化を遂げた。また、これらの端末上でAIを高速かつ効率的に処理するエッジコンピューティングも、次世代ソリューションを支えるテクノロジーとして脚光を浴びた。

【出典】筆者がCES2025において撮影
【出典】筆者がCES2025において撮影
【出典】筆者がCES2025において撮影

自律的に行動するAIエージェント

中でも、筆者が特に注目したのがAIエージェントだ。これは、人間の介入を必要とせず、みずから目標や環境を理解し、タスクを計画・実行できる高度な自律型AIである。予測AIが需要予測を、生成AIがオリジナルなテキストや画像の生成を担ってきた中、AIエージェントはその先を行く存在だ。

旅行手配を例にとろう。従来の生成AIは、目的地や交通手段といった旅行プランを提案するなど旅程を計画するのが精一杯。しかし、AIエージェントはその先へと踏み込み、ホテルやフライトの予約、支払いまでを「代理人」として自動でやってくれる。ユーザーは結果を待つだけでよく、従来の手間が完全に排除される。

実際、この分野には、すでに多くの主要企業が参入している。マイクロソフトの「Copilot Studio」は、顧客が自律型エージェントを自由に作成できる環境を提供。カナダのスタートアップ企業Chatbaseも、AIエージェントの構築プラットフォームを提供する。

【出典】筆者がCES2025において撮影

アマゾンは買い物アシスタントとしてAIエージェント「Rufus」の日本導入を準備中だ。アップルもスマホ上でアプリの操作や情報収集を学習するアシスタント機能を強化している。OpenAIは今年1月に研究者向けプレビューとしてAIエージェントを公開予定で、競合のAnthropicはすでにウェブ検索からデータ入力、さらにはコンピュータ画面の自律操作までを実現する「Claude」を導入している。グーグルやセールスフォースなどもAIエージェントの開発・運用を進めている。

日本勢も負けてはいない。富士通の「Fujitsu Kozuchi AI Agent」は、会議エージェントとしてAIが自ら会議に参加して情報共有したり施策を提案したりするだけでなく、製造や物流の現場ではカメラ映像を分析して改善提案をしたり作業レポートを作成したりする現場支援エージェントとしても活躍する。これらのソリューションは、人とAIが協調することで業務効率を飛躍的に向上させる新たな可能性を示している。

まさに、AIエージェントは、私たちのくらしや働き方を大きく変える可能性を持つテクノロジーなのだ。

AIエージェントは何がすごいのか

では、AIエージェントの何がそれほどすごいのか、その主なポイントを掘り下げてみよう。

① プロアクティブなAIエージェント
AIエージェントは、これまでの指示待ち型AIから脱却し、先を見据えて自律的に行動するプロアクティブなパートナーへ変化した。その真価は、ユーザーが気づく前にニーズを察知し、最適な解決策を提案・実行する点にある。旅行手配で言えば、ただ旅程を作成するだけでなく、混雑状況や天候、交通情報をリアルタイムで考慮し、旅先でリラックス時間を確保できるようスケジュールを調整することも可能だ。また、多忙な朝、AIエージェントが交通渋滞データをもとに最適な通勤ルートを提案し、さらにあなたの代わりにその日会議で使う資料を修正してくれていたとしたらどうだろう。これはもはや未来の話ではない。

② AIエージェントと人との共創
AIエージェントは、人のサポート役にとどまらず、共に新しい価値を生み出す共創のパートナーとして機能する。例えば、プロジェクト管理では、AIエージェントが膨大なデータを分析し、最適な施策を提案することで、意思決定の質を飛躍的に向上させる。富士通の「Fujitsu Kozuchi AI Agent」はその好例で、ユーザー自身がAIエージェントをカスタマイズすることで、ニーズに合わせた独自の共創環境を構築できる。

③ AIオーケストレーション
AIオーケストレーションは、複数のAIモデルやアルゴリズムが連携し、統合的に課題を解決するテクノロジーだ。企業がますます複雑なソリューションを求める中、AIエージェント同士が協力し合い、複数の意思決定プロセスを伴う課題を解決しながらタスクを遂行する「AIオーケストレーション」の重要性が増している。物流の例では、AIエージェント同士が協力し、サプライチェーンの最適化や在庫管理、需要予測を同時に実現する。企業は複雑なプロセスを効率化することで、競争力を高めることが可能となる。

④ AIエージェントによるハイパーパーソナライゼーション
AIエージェントは、ユーザーの膨大なデータをリアルタイムで解析し、状況やニーズに応じた高度な提案を行う究極のパーソナルサポーターとして機能する。これまでのパーソナライゼーションは、ユーザーの基本的な属性や過去の行動履歴、購入履歴、閲覧履歴など一般的なデータに基づく提案にとどまっていた。一方で、AIエージェントによるハイパーパーソナライゼーションは、ユーザーのリアルタイムの状況、位置情報や体調データといった現在のコンテキスト、多様なデータソースを活用して、より精緻で即時性のある提案を行うことができる。例えば、健康管理では、個人のライフスタイルに基づいた運動プランや食事改善の提案、さらにはその進捗管理までを手軽に実現する。

⑤ AIエージェントとIoT、ロボット、パーソナルデバイスとの融合
AIエージェントは、スマホやPC、スマートウォッチといったパーソナルデバイス、IoT家電やロボットとも深く融合される。例えば、スマホに搭載されたバーチャルアシスタントが、ユーザーのタスクを自律的に実行する場面を想像してほしい。AIエージェントは、毎月必要な食料品を自動で注文したり、配達日をカレンダーに登録したりする。複数のアプリで価格を比較して、ホテルやフライトの予約を行うことも可能だ。スマートホームでは、AIエージェントがエアコンの調整を行い、最適な室内環境を提供。工場や介護現場では、AIエージェントを搭載した協働型ロボット「コボット」が、人手不足を補うだけでなく安全性や効率性も高めることができる。

⑥ エージェントコマースの勃興
エージェントコマースとは、AIエージェントがユーザーに代わってオンラインショッピングやチケット予約を自律的に実行する新しい形態だ。これは、従来のように人がアプリを操作して行うショッピングから一歩進んで、AIが自動で購入や手続きを進めてくれる「エージェント経済」が具現化されたものとして注目されている。この仕組みにより、ユーザーは煩雑な作業から解放されるだけでなく、企業にとっても新たなマーケティング戦略の可能性を切り開くきっかけとなっている。

「企業のIT部門はAIエージェントのHR部門になる」

CES2025開幕直前の1月6日の夜、NVIDIAの創業者兼CEOのジェンスン・フアン氏が基調講演を行い、大きな話題を呼んだ。その場で発表されたのは、AIプロセッサ「Blackwell」の量産開始、デスクトップ用AIスーパーコンピューター「Project DIGITS」や自律走行車やロボティクス開発を支援する物理AIプラットフォーム「NVIDIA Cosmos」などの新商品だ。これらは、NVIDIAが多岐にわたる分野で最先端テクノロジーを牽引していることを改めて示すものだった。

もちろんNVIDIAも、AIエージェントをAI進化の中核に位置付ける。同氏は、AIエージェントは「数兆ドルの機会」であり、「AIエージェントの時代が到来した」と述べた。フアン氏の基調講演で発表された「Agentic AI Blueprints」は、企業がカスタマイズされたAIエージェントを迅速に構築・展開し、業務の自動化と効率化を実現するための包括的な開発フレームワークだ。これは、推論や計画、行動を自律的に行う「知識ロボット」としてのAIエージェントを支え、複雑なデータ処理や意思決定を可能にする。

【出典】筆者がCES2025において撮影

ここで特に興味深かったのは、フアン氏が語った「3つのスケーリング法則」である。これはAIの性能を進化させる基盤であり、フアン氏はこれを3つの段階に分けて解説した。

【出典】筆者がCES2025において撮影

第一に、「事前トレーニング・スケーリング(Pre-Training Scaling)」だ。AIの性能向上は、トレーニングデータの量、モデルの規模、そして計算能力の増加によって実現される。この法則に基づき、データが増えるほどAIはより高度な能力を発揮する。現在、インターネット上で生成されるデータ量は年々倍増しており、近い将来、人類史上これまでに生成されたデータ総量を凌駕する見通しだ。

第二に、「事後トレーニング・スケーリング(Post-Training Scaling)」だ。ここでは、強化学習や人からのフィードバックによってAIのスキルが洗練され、特定の分野での性能が向上する。AIは生成した回答に対してフィードバックを受け取り、反復的に課題を解決することで、自らの能力を高めていく。このプロセスは、人が教育や訓練を通じて成長する過程に似ている。

第三に、「テスト・タイム・スケーリング(Test-Time Scaling)」が紹介された。これはAIが実運用で発揮する能力に関するもので、複雑な課題に取り組む際に計算リソースを動的に配分する。単なる一回限りの推論ではなく、問題をステップ毎に分解して考える「推論」や、複数の解決策を生成・評価する能力が含まれる。これにより、AIは柔軟で適応力の高いシステムとして機能する。

AIエージェントの性能は、複雑な状況での意思決定や創造的な問題解決を可能にする方向へ加速する。AIエージェントは、人の代わりにより高度で多岐にわたる意思決定を下し、あらゆる側面で中心的な役割を担う可能性を秘めている。それを支えるのがフアン氏の語る「スケーリング法則」というわけだ。

フアン氏は「未来では、企業のIT部門はAIエージェントのHR部門になる」と言い切り、AIエージェントが職場生産性を支える中心的な存在になることを予測した。先進的な企業では、それぞれのプロがそれぞれのAIエージェントをもち、それぞれのプロがそれぞれのプロとコミュニケーションするとともに、それぞれのプロのAIエージェントがそれぞれのプロのAIエージェントとコミュニケーションして仕事を進める未来がすぐに到来する。これが彼の発言の真意だ。以下の写真は、AIリサーチアシスタントのプロのAIエージェントが多彩なプロのAIエージェントとコラボレーションする様子を示している。一方、自律走行車やロボットなどの物理AIに関連して「数兆ドル規模の事業機会」という巨大なポテンシャルにも言及。これらのテクノロジーが単なる個別のイノベーションにとどまらず、次世代経済を支える基盤となることを強調した。この展望は、NVIDIAの戦略がハードウェア供給を超え、AIとロボティクスを駆使して新たな産業と価値を創造するビジョンに根ざしており、フアン氏の言葉には強いインパクトと説得力が宿っていた。

【出典】筆者がCES2025において撮影

AIエージェントによる倫理的ジレンマの顕在化

AIエージェントの進化がくらしや働き方を一変させる一方で、私たちが直面する新たな課題も浮上してきた。もしあなたがAIにフライト予約を任せた結果、本来ならもっと安くて便利な便があったのに、AIの判断ミスや偏りでそれを見逃してしまったとしたら、どう感じるだろうか。あるいは、膨大な個人データが知らぬ間に商用目的で悪用されていたら。セキュリティやプライバシー保護、意思決定の透明性など、これらは単なる技術的問題にとどまらず、社会全体の信頼基盤を揺るがしかねない重要なテーマだ。膨大な個人データを扱う際、ユーザーの同意をどう確保するのか。また、AIが下した結論が果たして公正で信頼に足るものであるかをどう検証するのか。AIエージェントの可能性を議論する一方で、こうしたジレンマを克服するにはルールや枠組みの構築も欠かせないだろう。

AIエージェントが意思決定プロセスに深く統合される中で、その運用をいかに倫理的に行うかも重要な課題だ。AIエージェントが企業の偏見に基づいて重要な情報を見落としたり、誤った選択肢を提示したりした場合、その影響はどれほど大きいだろうか。その点、「Explainable AI」(XAI、説明可能なAI)の役割に注目が集まっている。XAIとは、AIの意思決定プロセスを明確化し、その根拠を人が理解しやすい形で提示するテクノロジーを指す。従来のAIはブラックボックスとしての側面が強く、その判断プロセスは不透明だった。XAIはその不透明性を解消し、AIがどのように結論を導いたのかを説明可能にすることを目指している。

より根本的に、人のアイデンティティや社会的な役割が再定義される可能性もでてくる。AIとの関係性が私たちの価値観や行動にどのように影響を与えるのかは、真剣に考えなければならない大きなテーマだ。

CES2025では、新たな時代の幕開けを告げる数多くのAI関連テクノロジーが披露された。それらは、単なる利便性や効率性の向上を超え、社会構造そのものを変革する可能性を秘めている。同時に、倫理的課題や透明性の確保への対応が求められており、企業が積極的に取り組むべき重要なテーマとなっている。私たちがAIエージェントをどう受け入れ、育てていくか。それは、これからの社会がどれだけ持続可能で、信頼に満ちたものになるかを左右するカギとなるだろう。

筆者プロフィール

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