AIに対する信頼を築くことの重要性

人工知能のイメージ図

Article|2024-04-15

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AIの効果的かつ倫理的な扱い方、またそれを顧客や雇用主に説明する方法を知っておくことが今日のビジネスリーダーにとって重要な課題です。では、何から取りかかればいいのでしょうか?

AIに関する議論の多くでは、AIが雇用や産業を消し去ってしまう破壊的な力のように語られています。しかし、AIは生産性を変革し、人間の創造性を高める可能性も併せ持っています。

競争に勝ち、存在感を維持するためには、組織にとってAIを採用する以外の選択肢はほとんどありません。また、AIをどのように活用しているかや、その理由を正確に説明する必要があります。そこで富士通は、2024年の世界経済フォーラム(WEF)で、AIの専門家やフューチャリスト(未来学者)にリーダーがこれを正しく行うにはどうすればよいかを尋ねました。  

AIにおける透明性とは

透明性とは、AIに限らず、人々が企業に対して期待するものです。取り組みや製品から企業が従業員や顧客とどのように向き合っているかまで透明性を保つことが、信頼できるパートナー・雇用主・商品/サービスプロバイダーになるための手段となります。

しかし、組織が常に完全に透明であるとは限りません。たとえば、機密データを法律により共有することはできず、ビジネスに損害を与える可能性のある情報は漏らしたくないものです。そのため、企業はビジネスでの競争力を損なうことなく関係性を維持するために、どれだけ顧客やステークホルダーと情報を共有するかのバランスを取る必要があります。WEFの専門家であり、CEOやテクノロジーイノベーター、起業家でもあるクマーデブ・チャタジー(Kumardev Chatterjee)氏は、AIの時代でも同じことが言えると話します。

「企業がAI主導であるからといって、今日違法とされていることが明日には合法になるとは限りません。AIがあるからといって、組織が従業員の大切な情報をオンラインに公開したりはしません。また、AI主導だからといって、適切なバランスを保つ組織が現在よりも透明性を高めなければならないわけではありません」

チャタジー氏は、AIの文脈においても同じ問題が残るだろうと指摘します。その上で、「いつものように、コミュニケーション、オーディエンスの管理、カスタマーエクスペリエンスの課題です。唯一の違いは、AIは組織が顧客の感情をよりよく理解したり、より良い顧客体験の戦略を策定したりするなどのタスクを実行するための優れたツールを組織に提供するだけです」と述べました。

次の疑問は、「どうすればリーダーはAIのプロセスを倫理的かつ安全で偏りのないように構築できるか」ということです。チャタジー氏は、その解決策は2つあるとしています。

まず、企業はAI監査員という新しい役割を担う人材を採用する必要があると言います。チャタジー氏は、「この役職は、独立した訓練を受け、法的にも技術的にも知識のある人材が担います。したがって、それは組織が進めるプロセスが安全かどうかを判断できる人となります」と説明します。

第二に、企業は業界内でのAIの取り組みというより大きな問題に取り組む必要があります。そのためには、業界主導のAIの透明性基準が不可欠になるとチャタジー氏は考えています。 

リーダーは、AIの使用方法を説明することで、どのように安心感を与えるか

組織は、AIのプロセスからどのように結果を得るかについて、理にかなった説明ができなければなりません。これにより、従業員や顧客はAIが悪意ある破壊的な力ではなく有用なツールなのだと捉えることができます。しかし、AIのプロセスを完全に説明することは可能なのでしょうか。

「一言で言えば、答えはノーです」とチャタジー氏は話します。彼の経験では、顧客が企業にAIを使ってXとYをどのように行っているかを教えてほしいと頼んだとき、彼らが実際に求めているのは安心感だといいます。つまり、組織の行動やプロセス、ソフトウェアによって自分たちの生活が損なわれないことを組織がどのように担保しているかを知りたがっているのです。

この安心感に対するニーズは、新しいテクノロジーが市場に参入するたびに表面化しており、今後も登場し続けるでしょう。「今日はAIですが、明日は量子コンピューティングがそうなるでしょう」とチャタジー氏は言います。「そして、その次の日にはレーザーによる認識になります」

ここでの良い例は、空港のスキャナーです。スキャナーが導入されたとき、人々はこの機械を通して空港の警備員に自分の体をさらけ出すことに愕然としました。「今はそんなことを考えることすらありません」とチャタジー氏は指摘します。「空港にボディスキャナーがなければ、保安検査場を通過するのに時間がかかり、人々は困惑します。AIについても同じことが起きるでしょう」

よって、すべてのプロセスを複雑かつ詳細に説明するのではなく、透明性と同様に、顧客に説明することと説明しないことのバランスを取る必要があります。

リーダーは、個人データが危険にさらされたり漏洩したりすることがないことや、固有のバイアスがないこと、そしてすべてのデジタルプロセスが倫理的に運用されていることを再確認する必要があります。しかし、競争上不利になる場合には、特定の結果に至る方法を常に開示できるとは限らないことを顧客や取引先に示す必要もあります。チャタジーは言います。「これはツールです。そして、他のツールと同様に、顧客やビジネスを損なうことなく責任を持って使用することが私たちの責任です。」 

AIツールが必要なデータにアクセスできるようにするために、リーダーは何をすればいいか

チャタジー氏は、「AIはコラボレーションを加速させます」と指摘します。これは、AIの力の多くが膨大な量のデータを処理・分析する能力から生まれるためです。しかし、多くの場合は、AIシステムが必要とするデータは1つの組織の枠組みの外にあり、パートナーやサプライヤー、顧客など、広いエコシステムの中にいる人々によって保有されています。

では、クラウドがその答えなのでしょうか? チャタジー氏は、「当社のデータのほとんどはクラウド上にあります」と言います。その上で、「また、AIにおいてはデータがどのネットワークに入っているか区別がつきません。必要なのはデータそのものです」と述べました。透明性と理にかなった説明に話を戻すと、これはAIがすべてのデータにアクセスできるという意味ではありません。「AIは組織の垣根を越えることができますが、何を公開するかはリーダー次第です」とチャタジー氏は言います。

たとえば、ある組織が業界のCO2排出量を削減するためにコンソーシアムの設立を計画しているとします。このとき、AIツールを使えばCO2の排出量やその他の関連情報をパブリッククラウドにリストアップしている20の組織を見つけられるでしょう。そして、コンソーシアムが結成されたら、これらの組織はAIを使用して問題を特定し、業界の基準を設定することでサプライチェーンのCO2の排出量を管理できるようになるのです。 

AIツールは、リーダーとイノベーターのコラボレーションをより効果的にするためにどのように役立つか 

このように、適切なツールとアプローチにより、データは組織が効果的にコラボレーションするのに役立ちます。SAPのチーフフューチャリスト兼フューチャーハブ責任者であるマーティン・ウェゾウスキー(Martin Wezowski)氏によると、サステナビリティは、SAPと富士通のSRP(社会資源計画)を通じて、すでにこのアプローチの恩恵を受けている分野の1つです。

ERP(企業資源計画)と同様に、SRPはAIや機械学習、クラウド技術を使って社内の業務と外部のパートナーを結び付けます。しかし、ERPがオペレーションに重点を置いているのに対し、「SRPはビジネスの成長を促進させながら企業が目的に向かって進むことを可能にします」とウェゾウスキー氏は話します。

「たとえば、ある企業がSDGs(持続可能な開発目標)のうち、きれいな水の普及に関する目標を達成したいと考えているとします。京都に住む3人の男がナノテクノロジーを有した革新的なフィルターを開発したとして、どうやってそれを知ることができるでしょうか」とウェゾウスキー氏は尋ねます。彼の経験では、このような専門家を探すには膨大な費用と時間がかかる可能性があると言います。また、規制上の要求や企業の価値観が異なることで、協力者が見つかった後もコストがかさむことがあります。

ウェゾウスキー氏は、SRPがその解決策になり得ると指摘します。リーダーと手が届きにくいイノベーターとをつなぐだけでなく、AIや生成AIなどのツールを通じて、潜在的なリスクを早期に特定します。「人々がイノベーターの大きなグループとつながることが可能となる新しい時代です。自律型ネットワークを通じてそれらを拡張することで、彼らが最高の力を発揮できるようになるのです」 

AIに対する信頼を築くことがなぜ重要か

チャタジー氏とウェゾウスキー氏は、デジタル化や競争の激化が急速に進む昨今の状況において、成功を保証する唯一の手段は先見性だと述べました。「ビジョンを持ちましょう」とウェゾウスキー氏は語りかけます。「あなたが今持っている能力を、明日必要な能力に適応させることができる場所を理解しましょう」

チャタジー氏もこれに同意しています。「それができれば、例えば2030年にどのようなアプリケーションやサービス、フローがあったとしても、製品とサービスをうまく適応させて提供できるようになるでしょう」

そして、AIはそのときまでにやってくるではなく、すでに存在しているのです。したがって、リーダーは組織と顧客にAIを効果的に使用することへの信頼を与える必要があります。そのために重要なのが、透明性・理にかなった説明・コラボレーションの3つのポイントです。

「AIへの信頼は、自然に生まれるものではありません」とウェゾウスキー氏は言います。「これは、シームレスで自律的なコラボレーションや適切なレベルの透明性、そして理にかなった説明の結果なのです。」

注目の知見

生成AI:ヒューマンエンパワメントによる信頼の構築

本稿では、組織のリーダーが、透明性、ヒューマンエンパワメント(人間の能力を引き出す)、AIがもたらす成果に対する確固たる戦略によって、信頼できるAIシステムを成功裏に計画する方法を示します。
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