「Sustainability Week: Countdown to COP29」イベント考察
ネットポジティブ:未来への希望
Report|2024年10月30日
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Economist Impact社主催のSustainability Weekが、2024年10月7日から8日にかけてオランダのアムステルダムで開催されました。
富士通からは大西副社長と山西執行役員(CSSO)が参加し、世界中のサステナビリティにおけるリーダーや専門家と持続可能な未来に向けた実践的な戦略を議論しました。富士通は持続可能な未来の実現に向けて、革新的な技術の提供だけでなく、社会全体の対話と連携にも積極的に取り組んでいます。
ネットポジティブ:未来への希望
「Sustainability Week: Countdown to COP29」イベント考察
「指数関数的に増大する(サステナビリティへの)課題に対し、(我々は)追いつくことができない速さでしか対応できていない」
ユニリーバの元CEOで、「Net Positive」の著者でもあるポール・ポールマン氏はこのように述べ、持続可能性の課題の深刻さを聴衆に示しました。
「Sustainability Week: Countdown to COP29」は、エコノミスト・インパクト社によって開かれたもので、サステナビリティという差し迫った課題に対する行動を促そうと、ビジネスリーダーや専門家らが集結し、議論を行いました。イベントを通して、パネルセッションやラウンドテーブル、ネットワーキングなどが行われ、COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)に向けた機運を高めることに繋がりました。
最初の目玉は、ポールマン氏の基調講演でした。ポールマン氏は、エコノミスト・インパクト社のフィリップ・コーネル氏との対談でまず課題の全体像を提示しました。ポールマン氏は、満員の聴衆を前に、「私たちは地球の持続可能な範囲を超えて資源を使用してしまっている」と指摘しました。たとえば、今年は世界の1年分の資源を8月1日までに使い果たしてしまったと言います。つまり、8月1日以降は、将来のための資源を前借りしていることを意味します。このため、この日は「アース・オーバーシュートデー」と呼ばれています。
しかし、ポールマン氏のメッセージは、全体を通して見るとポジティブなものでした。同氏は、リーダーシップの必要性、とりわけCEOが積極的に行動を起こすことの必要性を強調しました。ネットポジティブとは、価値を生み出すだけでなく、将来の大きなコストを避けるためのチャンスでもあるとし、「イノベーションにかかるコストは、何も手を打たない場合のコストよりも安く済み、企業が競争的な経営から協調的な経営へと転換すれば今あるテクノロジーでも8割の課題を解決に導ける」と述べました。また、各社のサステナビリティ部門がコンプライアンス部門になってしまっていることにも警鐘を鳴らし、サステナビリティの実現に向けての活動に関してはじめからパーフェクトを目指すのではなくベストを尽くすべき、とも語りました。
富士通はこのイベントのスポンサーを務め、COO兼CROである大西俊介が参加しました。大西は、エコノミスト・インパクト社のジョナサン・バードウェル氏のインタビューを受け、テクノロジーを活用したソリューションを紹介するとともに、富士通とエコノミスト・インパクト社とのパートナーシップについて発表しました。
この中で、バードウェル氏はまず、日本企業にとってサステナビリティが何を意味するのかについて尋ねました。これに対し大西は、日本は高齢化が進んでおり労働人口が減少していること、資源にも乏しく、地震や台風などの災害にもたびたび見舞われていることを示しながら、それゆえに日本は他国に比べてサステナビリティへの取り組みが進んでおり、レジリエンス(強じん性)が国としても重要な要素であると答えました。
また大西は、世の中をより持続可能にするために構築したビジネスモデルであるFujitsu Uvance(※1)を紹介し、「サステナビリティの推進が富士通のパーパスの中心にある」と説明しました。
(※1)Fujitsu Uvanceとは、お客様のビジネス成長と社会課題の解決を両立させるために生まれた事業モデルです。ソリューションの一つに「Unified Logistics」があり、これはあらゆるロジスティクスをつなぎ、業界全体の効率化による輸送ルートの最適化とGHG排出量の削減を両立するものです。データをつなぐことで、業務計画やプロセスの効率化はもちろんのこと、災害や紛争、日常的な変化に対応しリアルタイムで現場業務の最適化が可能です。これにより、労働力不足といった課題の解決にもつながります。
そして、大西は「ヨーロッパでも熱波や洪水による被害が増え始めており、日本から学べることがあるかもしれない」と述べ、富士通は革新的なテクノロジーソリューションを活用し、多くの組織が強靭なサプライチェーンを構築できるよう支援していると説明しました。
たとえば、富士通はAIとブロックチェーン技術を活用し、損害保険会社と共にお客様のサプライチェーンリスクを可視化するサービスを提供しています。また、別の企業に対しては、在庫データを統合し、AIを使って在庫の状況を最適化し、実際に2024年の元日に発生した能登半島地震の直後には、リアルタイムで影響を評価し、わずか2日間で損益の影響を試算しました。
一方で、テクノロジーの負の影響について問われた大西は、AIが消費する電力量が非常に大きいことを挙げました。このため、「富士通は電力消費量を削減するべく、AIを活用したエネルギー効率の高いGPUの提供に向けて開発しています」と説明し、また「テクノロジーはサステナビリティの推進にとって重要な要素であると同時に、そのテクノロジー自体もサステナブルでなければならない」と述べました。
大西は、ポールマン氏と同様に、企業が単独で結果を出すのは難しいことを強調しました。データこそが重要な要素であり、Fujitsu Uvanceは業種間で分断されたプロセスやデータをつなぎ、ビジネスをよりサステナブルなものにします。
バードウェル氏の「先行きが不透明であり、またサステナビリティへの世の中の要求が高まる現在において、ビジネスや戦略は何を重視したらよいのか」という質問に対し、大西は、「長期的な視点でアプローチをすること、マテリアリティ(重要課題)を設定すること、そして、経済的に実現可能なアプローチを確保することが重要である」と述べました。
エコノミスト・インパクト社はランチを囲みながらのラウンドテーブルディスカッションも開催しました。これには、さまざまな業界のサステナビリティリーダー12名が参加し、富士通のCSSO(Chief Sustainability and Supply Chain Officer)である山西高志が参加しました。幅広い議論が行われ、コミュニケーションの重要性や、研究開発からレガシーまでの循環性をどのように実現するか、それに、人材とスキルの役割などが主要なテーマとなりました。
イベント全体を通して、さまざまな業界のリーダーがインサイトや経験を提供しました。Reckittのニコレッタ・デ・シルバ氏は、消費者の心を掴むにはストーリーテリングが重要だと強調しました。その上で、「良いストーリーは消費者の共感を呼び起こし、購買意欲を高める力がある」と訴えます。
Lego Groupのスチュアート・ジェフォード氏は、示唆に富んだセッションを展開し、「困難な問題解決のためのイノベーションこそが、私たちのビジネスの本質だ」と述べました。 課題が難しいからこそ、まだ解決されていないのです。
最後に、再び最初のセッションの話題に戻ります。ポールマン氏は、よりサステナブルなビジネスを推進するためには次の3つのポイントを満たすことが重要だと言えるでしょう。
1. (サステナビリティを)コストとして捉えるのではなく、チャンスと捉えること
2. 世界への影響を可視化すること
3. CEOの任期ではなく、科学的知見に沿った長期的な目標を設定すること
これは、富士通の大西が示した見解と一致していると言えます。その大西は、2025年1月の世界経済フォーラムにおいて、富士通とエコノミスト・インパクト社が共同で「Net Positive Index」を発表すると述べました。この取り組みは、ビジネスリーダーが、環境と社会の両方に与えるネットポジティブな影響を測定したり、目標を設定したりすることを支援するものです。「Net Positive Index」は、組織が積極的に行動し、ネットポジティブに向けた取り組みを進めるための有用なツールとなるでしょう。
今後の情報にご期待ください。
大西 俊介
Shunsuke Onishi
富士通株式会社 執行役員副社長COO(リージョン)、CRO
35年以上に渡り、日系、外資系の IT サービス・コンサルティングカンパニーに在籍。NTTデータグローバルソリューションズ代表取締役社長、インフォシス Vice President 日本代表の経験を経て、19年富士通に入社。23年4月より CRO 兼グローバルカスタマーサクセス ビジネスグループ長に就任。CROとして、フロント組織のガバナンス強化とグローバル横断でお客様とのビジネス拡大をリード。
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