富士通 大西俊介CRO × 本田技研工業 三部敏宏社長 デジタルの力で共創するモビリティの新しい姿とは
Article|2024年1月29日
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サステナビリティ(持続可能性)実現のために、企業には何が求められているのか。それに対し、富士通がこれまで培ってきたデジタルの力でどのように貢献できるのか――。富士通の大西俊介CRO(最高収益責任者)がサステナビリティで先進的な取り組みを行う企業のトップと、未来へのシナリオを探る対談シリーズ。1回目は本田技研工業の三部敏宏社長を迎えて、新しいモビリティ産業に向けての課題認識や同社の取り組み、今後の方向性などについて話し合った。
ネットポジティブな企業になる
大西:自動車業界は100年に1度の変革期と言われていて、Hondaさんではサステナビリティに向けてTriple Action to ZERO(トリプルアクション・トゥ・ゼロ)というテーマを掲げられています。その中の3つの包括的な取り組みであるカーボンニュートラリティ(温室効果ガス排出の実質ゼロ)とクリーンエナジーとリソースサーキュレーション(資源の循環性)について、ここまでの進捗をどう見ていますか。
三部:製品からだけではなく、生産を含めて企業活動全体で二酸化炭素(CO2)を出さないという点が柱になります。そして、使うエネルギーがクリーンであること。それからモビリティ産業を資源循環型の構造に変えようということで2050年までには100%再生材で新車を作ろう、原材料を全部リサイクルしようというプロジェクトを起こしています。
そのうえで車の原材料から廃車、リサイクルまですべてにおいて、CO2を管理するにはデジタル技術がないと全くできません。例えば(原料の採取から製造、廃棄までの全体でCO2排出量を管理する)ライフサイクルアセスメント(LCA)やカーボンフットプリント(CFP)について、グローバルで通用するようなルールのもとにシステムとして管理できるものを作ろうとしています。
そしてエネルギーに関してですが、電気自動車(EV)のバッテリーというのは非常に大きなエネルギーをキープできるので、今度は充電するだけではなく蓄えた電力をグリッド(送電網)側に戻すという電気の出し入れによっていろいろな価値を出そうとしています。あとは(EVから住宅に電気を供給する)ビークル・ツー・ホーム(V2H)で家と車をうまくつなぎながら電気の効率を最大化することでも価値が生み出せます。これらももちろんソフトウエア、デジタルの技術がないとできません。
トリプルアクション・トゥ・ゼロをビジネスベースで回すにはデジタルというバックグラウンドが必要で、その辺が今の我々の開発で非常に大きな部分を占めています。Hondaの歴史的に言うと、それは劇的な変化です。最近は自動車産業というよりモビリティ産業と呼んでいますが、自動車のハードを開発して生産して売ってもうけるという形から、車と社会がつながり、そこにまた新しい付加価値を生み出しビジネスにしていくという形に変わる感じですね。
大西:環境やデジタルの点では、富士通でも23年5月に新しい中期計画を出したときに「(ビジネスを通じて環境や社会にプラスの影響をもたらす)ネットポジティブな企業になる」というメッセージを出しました。財務的なゴールだけではなく、環境問題への貢献、ウェルビーイング、デジタル社会の確立の3つをマテリアリティ(重要課題)として見て、社会的な貢献も含めてポジティブな存在を目指していきます。実は8月下旬に新しいサステナビリティの目標を出し直しまして、40年までにバリューチェーン全体をゼロにしていくこととしました。そのためには様々なステークホルダーのデータをつなぐなど、モニタリングに向けたブロックチェーンを中心としたデジタルテクノロジーの活用が必要かと思われます。
F1は電動技術を世界に示す絶好の機会
三部:先ほどビジネスモデルが変わると言いましたが、EVは電気がないと走れないので、その充電そのものがビジネスになると考えています。EVに使う電気がクリーンであるという証明をすれば、その車も全くクリーンな存在になります。自動車会社は無関係ではいられなく、充電インフラ側でビジネスを作っていこうという動きもあります。100年に1度の変革は、それぐらい劇的です。
大西:その意味で、(かつて参戦していた)F1にすごく魅力を感じられているようですね。
三部:過去にパワーユニットとして世界の頂点を極めたこともあり、我々の勲章だと思っています。しかし26年から、レギュレーションが完全にカーボンニュートラルに変わります。エンジンこそ付いていますが燃料は合成燃料ですし、半分は電気のパワーユニットなのです。エンジンとモーターを含めた電気ユニットの出力はほぼ半々なので、電動部分の競争力が勝敗を分けます。F1は世界で非常に注目されていますし、我々としては新しい電気の時代にも世界をリードするという、電動の技術を世界に示す上でも絶好の機会だと判断し、また26年から参戦します。
大西:電動の時代ということですが、環境適応やサステナビリティという言葉をそのまま受け取ると「みんなが少しずつ何か我慢しなければいけない」みたいな面があるように感じます。ですので、F1のように、その先にもっとワクワクするような世界があるという点を企業として見せていくことが必要ではないかと思っています。
三部:次の社会はクリーンなのはもちろんですが、やはり今以上に豊かで楽しい社会になるという点は必ず必要だと思いますし、そういうことがないとなかなか新しい社会に移行していかないと思います。その意味で、F1は非常にチャレンジしがいがあるプロジェクトになると考えています。
大西:また、素晴らしいと思ったのがサステナブルマテリアル(再生可能な原材料)の使用率を100%にしていくというところです。その点で、バッテリーについては乗り越えなければいけない課題が多いと感じます。
三部:リソースサーキュレーションは経済合理性がないと進まないと思います。その意味で、鉱山を掘って資源を集めて加工してできた材料に対してサステナブルマテリアルが同等以下のコストでできるならば、放っておいてもどんどん進むのではないでしょうか。ただ、今の車は非常に複雑な構造をしており、樹脂、鉄、アルミなどと奇麗に分けるのが大変でコストもかかります。ですので、材料と同時に「ばらすことを前提にした設計」の研究開発も進めています。
大西:我々も2年前にFujitsu Uvanceという新しい事業領域を立ち上げましたが、研究開発の時点からイノベーションが伴わないと、大きなブレイクスルーに行かないのではないかと感じています。
三部:研究室レベルでいろいろなことができても、やはりそれを本当に事業にすると意識してやらないと我々の狙うゴールまでたどり着けません。今は焦らず、まずじっくり議論しながら進めているところです。これができると今の資源問題をかなりのレベルで解決できるし、ひいては原材料価格の安定にもつながると思います。
車のパーソナライズに必要な協働
大西:電動化やデジタル化を進めていく上では人材が必要になりますが、技術者不足の中で獲得競争が激しくなっています。そんな中、御社では30年までに1万人のデジタル人材を確保されるお考えですね。
三部:インドのKPITテクノロジーズと契約して一緒に開発をしていくほか、いろいろな会社と同様の話をしています。一番コアな部分は当然、社内でやりたいというのがありますが、ソフトウエアの品質みたいなものは人工知能(AI)を使いながら改善できるようになっているので、少し外の力を借りるなどして開発能力を上げていこうと思っています。コネクテッドカーに必要な「アウトカー」の領域は自動車会社単独でできず、いろいろなデジタル系の会社さんと一緒にやることが不可欠なので、富士通さんもその1つであってほしいなと思っています。
大西:何かすごくわくわくするようなお話をいただいたような気がします。
三部:かつて車は世界の地域別に仕様を変えるなどしていましたが、今はソフトウエア、デジタルの力で一人ひとりのニーズにいかに応えていけるかという時代になると考えています。ソフトウエアの力が生きるようなハードウエア構成のEVで、あとはいかにそれぞれに合った車の価値を出せるようなシステムにするか。さらにいつでもその価値がどんどん更新される、買った後にどんどん進化していくことがEVに求められると考えています。
大西:今おっしゃった車をパーソナライズする点において、モノからコトに移行する、サービスを作っていくという意味でも人材は必要になると思われます。
三部:今までは快適な車、意のままに走れる車というのが価値だったのですが、今はそれに加えてカスタマージャーニーという、移動中に何ができるか、目的地に着いた後の情報も含めていかにユーザーの利便性を飛躍的に上げるかという部分が重要になります。いろいろなアプリなども作り始めていますが、使う側が煩雑すぎてよく分からないとなってしまわないように、カスタマイズできるようにしたいのです。販売する時にお客様に聞いて「スタートはこういう仕様にする」など、本当はその対価を頂くビジネスを作りたいわけです。
しかし、それがスタンダードになっていくと価値は薄れ、ずっともうかるという風にはならないので、どんどんソフトウエアの価値をアジャイル(機敏)に更新していくということが必要になります。その辺のビジネスの鍵になる開発、我々としては新しい世界ですが、そのための態勢を作り、新しい価値を提供していきたいと考えています。
大西:一連の取り組みは会社のアイデンティティーを変えていくことに近いところがありますが、どのようなことをされてきましたか。
三部:Hondaができて75年たち、車とバイクの世界ではかなり成長できました。しかし今の電動化への変革期においては、我々が作ってきたエンジンを中心とする商品が通用しなくなります。ゼロからのスタートだということで、グローバルブランドスローガンであるThe Power of Dreamsに、新たにHow we move you. という副文を付けました。基本的に考え方は全く変わっていませんが、今までの延長線上ではなく、もう1回最初から夢の力をベースに新しいモビリティを作っていこうと頑張っています。富士通さんとは、コンピューターの力をどう使うのが一番有効なのかなど、いろいろと一緒に議論しながらビジネスを作っていければと思います。
大西:本当にありがとうございます。
富士通ではデータドリブンな意思決定の支援を通じた企業のサステナブル経営の実現と、地球環境問題の解決に貢献しています。また、業種間のホワイトスペースをつなぐクロスインダストリーマネジメントで責任あるサプライチェーンを推進しています。
本記事は日経電子版広告特集で2023年10月23日~2023年12月4日に掲載された記事を再掲したものです。記事・写真・動画など、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
三部 敏宏
Toshihiro Mibe
本田技研工業株式会社 取締役 代表執行役社長
1987年本田技研工業入社。2014年執行役員、16年本田技術研究所取締役専務執行役員、18年本田技研工業常務執行役員兼本田技術研究所取締役副社長、19年本田技術研究所社長、20年本田技研工業専務取締役、21年4月代表取締役社長、21年6月から現職。
大西 俊介
Shunsuke Onishi
富士通株式会社 執行役員副社長COO(リージョン)、CRO
35年以上に渡り、日系、外資系の IT サービス・コンサルティングカンパニーに在籍。NTTデータグローバルソリューションズ代表取締役社長、インフォシス Vice President 日本代表の経験を経て、19年富士通に入社。23年4月より CRO 兼グローバルカスタマーサクセス ビジネスグループ長に就任。CROとして、フロント組織のガバナンス強化とグローバル横断でお客様とのビジネス拡大をリード。
Fujitsu Uvance調査レポート
富士通とフィナンシャル・タイムズが共同で世界15カ国1000人のビジネスリーダーを対象に実施した調査から明らかになった「サステナビリティ・ギャップ(サステナビリティの重要性の理解と進捗状況との間にある大きな乖離)」の実態と解決のヒントを解説した調査レポートを公開しています。
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