富士通 大西俊介CRO × 富士フイルムホールディングス 後藤禎一社長 デジタルと画像診断のタッグでウェルビーイングの未来を築く

大西俊介(左)と後藤禎一(右)

Article|2024年3月21日

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サステナビリティ(持続可能性)実現のために、企業には何が求められているのか。それに対し、富士通がこれまで培ってきたデジタルの力でどのように貢献できるのか――。富士通 CRO(最高収益責任者)の大西俊介が、サステナビリティで先進的な取り組みを行う企業のトップと、未来へのシナリオを探る対談シリーズ。2回目は富士フイルムホールディングスの後藤禎一社長を迎えて、ヘルスケア産業におけるデジタルの活用、そして人々のウェルビーイングに向けた取り組みなどについて語り合った。

データの活用でQoL向上に貢献したい

大西:新型コロナウイルス禍は、人生100年時代に向けてウェルビーイングというものを考えるうえで、非常に大きなトリガーになったと思います。富士フイルム様はサステナビリティに対する取り組みで、長期ビジョンとしてサステナブルバリュープラン2030(SVP2030)を定められています。これまでの成果をどのように捉えられているのか、教えていただけますでしょうか。

富士通 執行役員SEVP CRO 大西俊介
富士通 執行役員SEVP CRO 大西俊介

後藤:当社は経営の根幹に、事業を通じて社会課題を解決するということを据えています。現在、事業の成長と社会課題の解決を両輪とし、環境・健康・生活・働き方の4重点分野で様々なKPI(評価指標)を入れて取り組んでいます。経済的価値と社会的価値の両方を追求しながら「稼げる会社」に進化させていこうと、社員に対しても呼び掛けています。今後、社会貢献に資する投資を行わない会社は市場から退場を余儀なくされるでしょう。環境保全や社会貢献をコストと考えずに、事業成長のための投資のひとつとして実行していかなければなりません。そのためにも「稼げる会社」に進化させ、継続的な企業成長を実現していきます。

富士フイルムホールディングス 代表取締役社長CEO 後藤禎一氏
富士フイルムホールディングス 代表取締役社長CEO 後藤禎一氏

大西:富士通の2025年までの中期計画でも、マテリアリティ(重要課題)の1つとして人々のウェルビーイングへの貢献を掲げています。クオリティ・オブ・ライフ(QoL)という健康的に生活の質を高めていくことに対して、どう貢献できるかという点でSVP2030に親和性を感じます。そのうえで、予防・診断・治療の3つの領域で最先端の製品やサービスを提供するだけでなく、そこで発生するデータを活用し、そのデータをつなげて大きな価値を提供することで、より大きな社会課題を解決できるのではないかと思っています。その意味で、データはボリュームに加えて信頼性を持ったものでなければいけないと考えています。この点は御社が提唱されている、サプライヤーと円滑に情報を共有するためのブロックチェーン(分散型台帳)基盤「デジタル・トラスト・プラットフォーム(DTPF)」につながるのではないでしょうか。

後藤:予防・診断・治療のヘルスケア分野で、圧倒的に力を持っている領域は診断で、これがヘルスケア分野の核です。当社の強みは、最先端の研究を行うための病院との豊富なタッチポイント、医用画像データの蓄積があることです。そして、この強みの源泉が、世界トップシェアを持つ医用画像管理システム(ピクチャー・アーカイビング・アンド・コミュニケーションシステム、PACS)です。PACSは画像の大量保管・管理や検索を効率的に行える、医療インフラを支える重要な基盤となっています。当社はPACS以外にも、PACSとつながる幅広いモダリティ(医療機器)があり、そこから生まれるデータは今後の医療技術・インフラの進歩や発展につながる重要なものと考えています。

インドから広げるヘルスエコシステムの輪

後藤:富士通さんが提唱されているデジタルヘルスエコシステムに関して言うと、日本では価値あるデータがまだ活用されていないと感じています。当社は、画像診断のデータを中心に活用を考えていきたいと思っています。その点では、まさにインドで手掛けている健診センター「NURA」が該当します。「NURA」では当社のCTやマンモグラフィなど、さまざまな医療機器や画像診断支援AI(人工知能)技術を活用した健診サービスを展開しており、そこから生まれるデータは蓄積されていきます。現在はDTPFを使って、AI技術を用いた分析などデータを活用する実証も進めています。もちろん、そのデータは受診者の同意を得て個人が特定されないように加工するなど、各国の法律に対応したものです。今後、実証成果を示し、インドの皆さんの心に刺さる本当のデジタルエコシステムにつながるようなものを作り上げたいと思っています。

大西:富士通が2年前に発表したFujitsu Uvanceという2030年に向けて取り組んでいる大きな事業分野の中で、今年の春、ウェルビーイングにフォーカスしたHealthy Living Platformという構想を出しました。DTPFとよく似ているのですが、富士フイルム様の場合は具体的にそれを広げていく上で現実に直面する問題をどう克服していくかという課題に既に取り組まれていると感じました。

後藤:「NURA」を開設したのは、インドをはじめとする新興国にも健診文化を根付かせたいという思いからです。新興国で厚みのある中間層が生まれてくると、自分たちの健康への関心が高くなります。その高まる健康ニーズを受け止められるよう、日本式の健診システムをまずインドに導入しました。21年から22年にかけてベンガルール、グルグラム、ムンバイに、そして23年9月にはモンゴルのウランバートルに開設し、現在では4拠点を展開しています。30年を目標に、新興国を中心に100拠点設ける計画です。いろいろな仕組みを作りながら展開していますが、実際にサービスを始めてみると、国によって疾患の箇所や生活習慣病の罹患(りかん)状況がかなり違うということがよく分かりました。インドでは当初、検診にあたってがんを一番に考えていましたが、心臓疾患なども非常に多いです。

また、健康は主体者である個人を中心に病院や製薬会社、保険会社、行政など多くのステークホルダーが関わります。グローバルでの医療の連携や健康に関わる情報の活用は重要課題の1つであり、この課題解決に貢献することを目指しています。例えば、インドでは個人の健康データの見える化、さらにそこから創薬へつながる仕組みの構築が可能になると考えています。また、個人の健康状態が分かるという点で、保険会社などからパッケージ保険を作りたいという問い合わせが届くなど、エコシステムの広がりを感じます。病気だと分かった際の病院との連携も生まれてきます。

大西俊介(左)と後藤禎一(右)

大西:エコシステムの広がりとともに、御社の事業展開にデジタルやAIなどの技術が深く入り込んでいることが背景にあるのでしょうね。経営の根幹にまでデジタルが入るという点では、私ども富士通のような会社と、今後どのようなパートナーシップが考えられますでしょうか。

後藤:当社は特に画像診断領域で集中的に強みを発揮していますが、病院で使用されるシステム全体をカバーしているわけではありません。病院の経営を考えますと、画像診断以外も含めたシステムを最適化していく必要があります。富士通さんは「ITの総合商社」であらゆるシステムに精通しておられますので、その役割を期待しています。

大西:デジタルヘルスエコシステムのようなものを具体的に作っていくうえで、御社のような企業に加えて保険業界、食品業界など業種を超えたクロスインダストリーの取り組みをどうするか、そして業種と業種の狭間にあるホワイトスペースにいかに価値を見いだしていくかが重要です。エコシステムは企業間のネットワークがないとうまくいかない面があり、ぜひご一緒できればと思います。

心の豊かさの原点は“プリントされた写真”

大西:サステナビリティを考えるうえで、QoLを追求していくには、人生を豊かにすることも含めていかなければならないと思います。その辺りは、どのように考えていらっしゃいますか。

後藤禎一

後藤:当社の企業理念は、先進・独自の技術をもって最高品質の商品やサービスを提供することにより、社会の文化・科学・技術・産業の発展、健康増進、環境保持に貢献し、人々の生活の質のさらなる向上に寄与することです。メディカルシステムなどヘルスケアに関わる事業はダイレクトに理念に結び付いていますが、他の事業も同様にこの理念につながっていると考えています。心の豊かさやウェルビーイングという点で、ヘルスケア分野の売り上げや営業利益が最大となった今でも「富士フイルムは写真文化を守ります」と言い続けています。現在は、特にインスタントカメラ「チェキ」が全世界で好評です。デジカメやスマホと違い、アナログのチェキ「INSTAX mini 12」などは、撮った後にチェキフィルムが現像・プリントされて写真を初めて見ることができます。エモーショナルな深い味わいの写真を実際に手に取ることができる点が、受け入れられているようです。

私は写真1枚1枚に対する思い入れがすごく強く、いい写真は必ず部屋に飾っています。それを見るたびに当時の雰囲気や会話、においがよみがえってくるのです。スマホの中の写真を探すのではなく、ずっと見えるところに置いておくことが意味を持つのです。東日本大震災の際には、当社では津波で流され泥まみれになった写真を洗って救済する活動を行いました。神奈川県南足柄市の事業場の体育館に被災地から写真を送っていただき、従業員にOBも加えてボランティアで作業を行いました。写真に対する思い入れが強いからこそできることで、それは我が社のDNAだと思っています。

大西:お話を伺っていて感じたのですが、手触りのある部分に加えて心の豊かさのようなメンタルのところも含めてデータで見えてくると面白いかもしれないですね。心と体の連携性はあるでしょうし、そういった面についてもワクワク感を広げていくというのが大事だと改めて思います。ぜひ寄り添っていければと思います。

後藤:当社の多様なビジネスで世界の持続的な発展に貢献していく、そのような未来を作りたいです。ぜひ、これからもよろしくお願いします。

大西:どうもありがとうございました。

大西俊介(左)と後藤禎一(右)

富士通ではデータドリブンな意思決定の支援を通じた企業のサステナブル経営の実現と、地球環境問題の解決に貢献しています。また、業種間のホワイトスペースをつなぐクロスインダストリーマネジメントで責任あるサプライチェーンを推進しています。

本記事は日経電子版広告特集で2023年11月13日~2023年12月18日に掲載された記事を再掲したものです。記事・写真・動画など、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。

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