サプライチェーン
「全体」のCO₂
排出量を可視化
業種を超えた連携を

富士通 SX事業企画統括部部長 相原蔵人

Article|2023年11月16日

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カーボンニュートラル実現に向けて、いま企業では、自社だけでなく、サプライチェーン全体でのCO₂排出量削減が世界共通の課題です。しかし、原材料の調達から販売、廃棄に至るまでの製品ライフサイクルのうち、特に「Scope3(スコープ3)」―他社からの間接排出―は算出が難しく、多くの企業が頭を悩ませています。

こうした中、富士通は今年9月、サプライチェーン全体のCO₂排出量を「可視化」する社会実装に成功したと発表しました。注目を集めるこの最新のプロジェクトについて、富士通 SX事業企画統括部の相原蔵人がネット配信セミナー「日経ビジネスLIVE」に出演し、成功のポイントなどを解説しました。

世界共通課題:サプライチェーン全体のCO₂排出量の削減

「いま取引先から購⼊した製品・ サービス由来のCO₂排出量(Scope3カテゴリー1)削減は、お客様の課題になっています」
セミナーの中で相原はそう指摘しました。
「サプライチェーンでは、製品の原材料調達から製造物流、販売、使用、廃棄までライフサイクル全体で排出量を考えねばなりません。そして、製造・物流・リテール…各業界でデータは分断されています。これを可視化しないことには、サプライチェーン全体の排出量は分析できません」

相原は「サプライチェーン全体でネットゼロを目指すには」をテーマとするプログラムに出演し、サプライチェーン全体のCO₂排出量削減の難しさを説明しました。背景には、ヨーロッパを中心に温室効果ガスのネットゼロを目指す企業の中で、特にScope3のカテゴリー1と呼ばれる取引先のCO₂排出量の具体的な目標設定やその削減を求める流れが加速していることがあります。

富士通 SX事業企画統括部 部長 相原蔵人
Solution Service戦略本部 SX事業企画統括部 部長 相原蔵人

JEITA「見える化WG」でサプライチェーン全体可視化を実証

セミナーの中では、一般社団法人 電子情報技術産業協会(JEITA)が事務局を務める「Green x Digital コンソーシアム」が実施した企業間CO₂データ交換の実証実験についても紹介しました。

これは富士通が副主査を務める「見える化WG(ワーキンググループ)」のプロジェクトで、35社が参画。疑似サプライチェーンを組んで、共通的な方法で算定した排出量データを連携、全体のCO₂排出量を正確に把握できるかを2段階の実証フェーズで確認しました。

第1フェーズでは、ソリューション間でのデータ連携の技術的な検証を行う実証実験が行われました。さらに多くの企業が参加した第2フェーズでは、自社の排出量データを次の企業に渡し、さらにその企業が次の企業に渡すリレー形式で実験データを共有し、最終的にサプライチェーン全体を通して排出量を可視化できることを確かめました。

相原は、「2021年5月ごろは50社程度の参加でしたが、23年には150社ほどまで増えて多くの日本企業が高い関心を持っていることがうかがえます。今回はわかりやすいノートパソコンを対象製品にしたため、電子機器に関わる企業が多かったのですが、今後はものづくりの分野に限らず、様々な業種・業界を通じて、データ連携の輪を広げていきたいです」と述べました。

Green×DigitalコンソーシアムCO₂見える化実証の概要図。 仮想のサプライチェーン上で多数の企業が連携して情報共有の手順を確認した。
Green×DigitalコンソーシアムCO₂見える化実証の概要図。
仮想のサプライチェーン上で多数の企業が連携して情報共有の手順を確認した。

CO₂排出量は「可視化」してから削減へ

「Scope3のCO₂排出量の算定は、基本的にGHGプロトコルなどのガイドラインはあるものの、各企業が採用している算定方法がバラバラなのが現状です」
相原は、サプライチェーン全体のCO₂排出量を「可視化」するプロジェクト、PACT(*1)について説明しました。この社会実装は「持続可能な開発のための世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development:WBCSD)」が企画し、2023年4月から9月にかけて実施。富士通はLead Companyとして中心になって検証を行いました。

プロジェクトで使ったのは、富士通のノートパソコンの筐体のサプライチェーンにおける実データです。パソコン筐体の加工メーカーや樹脂材料を提供する企業など複数の企業を、当社のブロックチェーン技術を活用したソリューション「Fujitsu Track and Trust (フジツウ トラックアンドトラスト)」(*2)などで連携。企業間で分断されていたデータをつなぎ受け渡しすることで、実データに基づいたサプライチェーン全体のCO₂排出量を導き出すことに成功しました。

「実際のサプライチェーン上で実証できた意味は大きい」と、相原は指摘しました。
「グローバルに使われる標準に基づいて実証できました。今回は富士通のノートパソコンのデータを使いましたが、様々なハード製品への拡大や、他社や他業界のサプライチェーンでのデータ連携による実装へ拡大していきたいです。

また、成功の重要なポイントは、「サプライヤー・エンゲージメント(*3)」だと強調しました。
「いろいろな企業に参加していただきながら、なぜこの取り組みが大事かとたくさんの議論をしながら進めたことが、実現につながったと思います。なぜ自分の会社のCO₂情報を教えないといけないのか…といったところは、とても難しい部分です。各サプライヤーがどれだけCO₂排出量の可視化や削減に取り組んでいるかを、上流の生産企業はきちんと理解し採用を決めるのだと納得いただいたことも大きかったのではないでしょうか」

WBCSD/PACTの社会実装の概念図。富士通はノートパソコンのサプライチェーン全体のCO₂排出量を算出し、企業間のデータのやり取りが異なるソリューションで実行可能であることを実データで社会実装した。
WBCSD/PACTの社会実装の概念図。富士通はノートパソコンのサプライチェーン全体のCO₂排出量を算出し、企業間のデータのやり取りが異なるソリューションで実行可能であることを実データで社会実装した。

相原はさらに、「可視化」を皮切りに取り組みをさらに広げていきたいと訴えました。

「可視化だけで終わってはだめで、可視化したあとに、解析やシミュレーション、そして削減の提案までをソリューションとしてしっかりとお客様に提供していきたいと思っています。もっと言いますと、今回はカーボンニュートラルがテーマだったため、『ESG経営』のEの部分、環境(Environment)が中心でした。Sの社会(Society)とGのガバナンス(Governance)といった部分もしっかり可視化し、社会課題解決に貢献することが大事です。そういったところにもデジタル技術を活用して取り込んでいきたいと思います」

  • (*1) PACT: Partnership for Carbon Transparency
  • (*2) Fujitsu Track and Trust
  • (*3) サプライヤー・エンゲージメント:気候変動に関して企業がサプライヤーと効果的に協働すること。排出量削減に取り組む国際的な非営利団体Carbon Disclosure Project(CDP)が企業評価のポイントとして挙げている。
「日経ビジネスLIVE」に富士通の相原蔵人(右)が出演し、カーボンニュートラルに向けた取り組みを説明した。(左)日経BP総合研究所 上席研究員 木村知史氏
「日経ビジネスLIVE」に富士通の相原蔵人(右)が出演し、カーボンニュートラルに向けた取り組みを説明した。(左)日経BP総合研究所 上席研究員 木村知史氏

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調査レポートのイメージ図
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富士通 執行役員SEVP 高橋美波