「地球沸騰化」に歯止めを
気候変動アクションを議論
Article|2023年11月8日
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「もはや地球温暖化ではなく”地球沸騰化”の時代だー」各地で記録的猛暑が観測された2023年。実効性のある気候変動対策を求める声がますます高まっています。そうした中、企業はいかにCO2排出量を減らそうとしているのか。気候変動対策を議論するパネルディスカッションに、富士通グローバルビジネスソリューションビジネスグループ 青柳一郎が参加し、世界全体で脱炭素を考えていくための仕組みづくりが重要だと訴えました。
脱炭素に向けた取り組みを議論
2023年、東京は連日、「熱中症警戒アラート」が出される猛烈な暑さを記録しました。実は猛暑は世界規模で観測されており、国連の世界気象機関は、この年の6月と7月の世界の気温は、観測史上最も暑かったと発表しました。これを「地球沸騰化」と形容したグテーレス事務総長は「政府以外のリーダーたちが行動することが必要だ」と指摘し、各国企業に取り組みを強化するよう呼びかけました。
こうした中、気候変動に取り組む企業やNGOなどでつくるネットワーク「気候変動イニシアティブ(Japan Climate Initiative)」は、10月にシンポジウムを東京で開催。パネルディスカッションには、公立鳥取環境大学 江﨑信芳学長、株式会社リコーの鈴木美佳子氏、株式会社花王の高橋正勝氏のほか、富士通株式会社から、社会課題に挑む事業モデル「Fujitsu Uvance(フジツウ ユーバンス)」を担当する青柳一郎が参加し、「脱炭素の加速」をテーマに議論を交わしました。
Solution Service Strategic本部 本部長 青柳一郎
青柳は、急速な環境の変化に対応するため、富士通がグループ全体で、事業活動に伴うGHG排出量(Scope1,2)を2050年度に100%削減としていた目標を、20年前倒し2030年度までに削減することを紹介しました。富士通がこれまで掲げていた目標は2050年で、経営計画を大きく修正したことになります。また、バリューチェーン全体(Scope3)でも2040年までにネットゼロを目指すことを発表しました。
サプライチェーン全体のCO2排出量を可視化
シンポジウムの中で青柳は、サプライチェーン全体のCO2排出量の「見える化」を検証した社会実装について紹介しました。このプロジェクトは、「持続可能な開発のための世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development:WBCSD)」が世界共通の課題であるサプライチェーンの脱炭素対策を検討しようと企画しました。社会実装は2023年4月から9月にかけて実施され、グローバルのLead Company 8社が参加しました。富士通はソリューションプロバイダーとして参加したほか、Lead Companyとして主導しました。
実装では、富士通のノートPCの筐体のサプライチェーンにおける実データが使用されました。PC本体のメーカーや樹脂材料を提供する企業など複数の企業を、当社のブロックチェーン技術を活用したソリューション「Fujitsu Track and Trust (フジツウ トラックアンドトラスト)」(*1)などで連携。企業間で分断されていたデータをつなぎ、非常に計算が複雑といわれるサプライチェーン全体の排出量算出を、階層「Tier3(ティア)」(*2)までカバーして成功したことを説明しました。
「今回初めて、国際標準の技術仕様書『Pathfinder Network』に則り、企業間で一次データに基づいた製品カーボンフットプリントのやり取りができることを社会実装において確認しました。カーボンニュートラルを目指す上では、お客様にきちんとソリューションの形で提供することが重要です」と青柳は述べました。「しかし、まだまだルール・規格が整備されていない。富士通は、この分野をリードしたいとしている機関と一緒に、あらゆる技術的なチャレンジに取り組み、新しいルール作りにコミットしたいと考えています」
- (*1)Fujitsu Track and Trust
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(*2)Tier:サプライチェーンの階層を意味する。完成品メーカーをTier0、Tier0へ製品部品を供給する企業をTier1、2、3という。上流に遡るほどTierの数は大きくなる。
また、青柳はカーボンニュートラルを目指す取り組みには、長期的な視点が必要だと訴えました。
「企業成長と脱炭素のバランスをどのようにとるかが大事ではないかと思っています。ともすれば、脱炭素の取り組みはコストだと思われるところがある。一方で、長期的な視野で捉えると、それは一時的な費用やコストというよりも、次の競争環境に対する投資という捉え方ができるのではないでしょうか」
その上で、サプライチェーン全体の排出量を可視化するには、すべての関係企業の情報を共有する過程で、中小企業も含めて投資を行う必要があり、そこを社会がどう捉えるかが課題だと指摘しました。
公立鳥取環境大学 江﨑信芳学長/ 富士通 青柳一郎
脱炭素を「世界全体」で考えていく仕組みを
パネルディスカッションでは、政府に求めるべきことについても話し合われました。
登壇者からは「規制の面では常にヨーロッパが先行しているが、日本政府がリードしてパリ協定に沿った目標を設定すべき」とか、「規制が進まない中では企業の自主的な取り組みがカギとなってくる。脱炭素に向けて消極的な企業が得をするのではなく、積極的に取り組んでいる企業が報われるような支援をしてほしい」といった意見が出されました。
これらに対し、青柳は脱炭素を可能にするスキームが重要だと訴えました。
「投資力は小さいもののサプライチェーンの中で重要な役割を担う企業を、どうやって脱炭素のシステムの中にいれていくか。場合によっては税制優遇なども考え、世界全体で考えていく仕組み・制度が必要ではないでしょうか」
その上で、厳しい状況は新しいビジネスが興るチャンスでもあると強調しました。
「素材や物を2次利用・3次利用する『サーキュラーエコノミー』が、ヨーロッパを中心に広がっています。この分野で日本が存在感を発揮し、若い世代を中心に新しい人材を輩出していくことで、まだまだ明るい未来が描けるのではないでしょうか。富士通はそのような社会を皆さんと一緒に作って参りたいと思います」
青柳 一郎
Ichiro Aoyagi
富士通株式会社 Solution Service Strategic本部 Co-Head
松下電器産業株式会社(現Panasonic)を経て、1998年富士通株式会社に入社。複数の事業部門において海外戦略を立案、実行。Kellogg経営大学院でMBA取得後、外務省に出向し日本とインドネシアの経済連携協定交渉に従事。2020年4月DXプラットフォーム事業本部長に就任。データアナリティクスやブロックチェーン等、データ事業を立ち上げ、2022年4月からFujitsu Uvance本部副本部長として、社会課題解決を目指す事業を国内外で牽引。2023年4月より現職。
Fujitsu Uvance調査レポート
富士通とフィナンシャル・タイムズが共同で世界15カ国1000人のビジネスリーダーを対象に実施した調査から明らかになった「サステナビリティ・ギャップ(サステナビリティの重要性の理解と進捗状況との間にある大きな乖離)」の実態と解決のヒントを解説した調査レポートを公開しています。
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