サステナビリティ×テクノロジーで挑む:Fujitsu Uvanceの事例から
Article|2023年7月12日
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2020年に富士通は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパスを設定しました。そのパーパスを実現するため、翌2021年に社会課題を起点とした市場創造と高付加価値化を進めるためのビジネスモデル「Fujitsu Uvance」(フジツウ ユーバンス)を立ち上げました。
Fujitsu Uvanceのミッションは、テクノロジーとイノベーションによる地球環境問題の解決、デジタル社会の発展、人々のウェルビーイングの向上を目指すとともに企業のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)を加速させることです。
豊かでサステナブルな社会を実現するため企業は何に取り組むべきなのか。富士通はテクノロジーの力で社会にどのような新しい価値をつくろうとしているのか。Fujitsu Uvance事業を率いる富士通執行役員SEVP高橋美波に話を聞きました。
世界が抱える課題とSXの現状
「私にとって最近の関心事は『脱グローバリゼーション』です。世界が今までのグローバル化と真逆の方向へと進んでいく中でさまざまな危機が発生し、各国がそれぞれの地域ブロック内で経済連携を強めて対処しようとする動きがあります」と高橋は現在の世界情勢を分析します。
「そのような流れの中で企業や国がこれから取るべき対応は、ブロック化が進む世界の中でグローバリゼーションをどう推進するか考えることと、コロナ前の状態に完全には戻らないとしても社会を良い方向へ変えるために企業や国が分業・分担していくことだと思います」
気候変動に伴う温暖化や相次ぐ大規模な自然災害、サイバー犯罪、移住に対する障壁など世界が直面する課題は数多くあります。
それらは構造的な社会問題であるため簡単には解決できません。深刻化させないためには政府・企業・個人が協力してレジリエントなエコシステムを構築することが急務です。その時に欠かせないのが「サステナビリティ・トランスフォーメーション」(SX)の取り組みです。
富士通とフィナンシャル・タイムズ社が企業や団体のリーダー1000人を対象に2022年に行った調査では、「サステナブルであることは正しいことであり最終的にはビジネスを良い方向に導く」と考えている企業は全体の77%で、「サステナビリティがこれから5年間の組織の最優先課題である」ととらえている企業は57%に上ることがわかりました。
また、68%は「テクノロジーへの大規模な投資がなければサステナビリティの変革は成功しない」と答え、48%が「各社のテクノロジーがSXを推進するために十分な進歩をしていない」という悩みを抱えていることを示しています。
テクノロジーとサステナビリティの両方に焦点を当てることでより良い事業成果を出している企業は回答者のわずか6%にすぎません。SXの実現に向けてはどのような変革が必要で、テクノロジーをどう活用していけばよいのでしょうか。
Scope3を見据えたSXの重要性
高橋はソニー株式会社、日本マイクロソフト株式会社における事業変革やデジタルトランスフォーメーション(DX)支援を経て富士通に入社し、現在はグローバルビジネスソリューションビジネスグループ長としてSX/DXを推進しています。
「SXは経済合理性と対立するものであり、コストでしかないという意見もあります。しかしグローバルな流れではそうではありません。環境と社会と経済とは密接に関連し、どれか一つのトレードオフではないという理解で、SXを進めていかなければなりません」と高橋は言います。
特に、原材料調達から製造、物流、廃棄まで一連のサプライチェーンでの温室効果ガス(Greenhouse Gas=GHG)の排出量については、事業者自らの燃料の燃焼や工業プロセスなどから直接排出されるGHGの量にあたる「Scope1」と、他社から供給された電気や熱、蒸気の使用に伴う間接排出の「Scope2」に加えて、「Scope3」の輸送や廃棄といった間接排出対策にも注目が集まっています。
Scope3を含むサプライチェーン全体の排出量の算定や削減に力を入れることは企業にメリットをもたらします。たとえば、優先的に削減すべき対象を特定することで環境負荷の削減に向けての戦略や事業戦略策定のヒントを導き出すことができ、他業種との連携から新しいビジネスの創出や新規顧客の開拓へとつながる可能性もあります。
Scope3を見据えたSXの重要性について、高橋は次のように説明します。
「Scope3の可視化はエコシステム全体のGHG排出量の最小化につながります。自分たちだけではなく、ベンダーやサプライヤーのデータ可視化・一元化を行うことでGHG排出量の削減を実現したいという一歩先へと進んでいる企業様からの相談もあります。富士通にはPalantir(パランティア)というデータ統合基盤のテクノロジーがあり、それを使って分断されているシステムのデータをまとめ、排出量最小化のシミュレーションを行う流れを作ろうとしています」
SX市場の将来性については、2025年にはグローバルで8兆円以上の市場が形成され、一説には2030年には20兆円、さらには80兆円規模にまで拡大するとの予測もあります。このように多くの企業がサステナビリティ関連事業にビジネスチャンスを見出そうとしていますがSXの進捗状況は企業ごとに大きく異なっています。
SXはCSR活動の一環という認識であったり、ビジョンを策定する段階までで止まっていたりする企業も多く、サステナビリティに対する前向きな意識と実際の進捗との間にある大きな差を解決しなければ成功は難しくなります。ではどうすればSXを前へ進めることができるのでしょうか。そのヒントは「Fujitsu Uvance」の中にあります。
SXを支援する「Fujitsu Uvance」
Uvanceは「あらゆる(Universal)ものをサステナブルな方向に前進(Advance)させる」という2つの言葉を重ね合わせた造語です。多様な価値を信頼でつなぎ、変化に適応するしなやかさをもたらすことで、誰もが夢に向かって前進できるサステナブルな世界をつくるという富士通の決意が込められています。
Fujitsu Uvanceのビジネスモデルの根幹は社会課題を起点に市場を創造して高付加価値化を目指すことです。その実現のために、「Sustainable Manufacturing」「Consumer Experience」「Healthy Living」「Trusted Society」というクロスインダストリーの4分野と、それらを支える「Digital Shifts」「Business Applications」「Hybrid IT」の3つのテクノロジー基盤の合計7つの重点分野(Key Focus Areas)を設定しています。
「富士通が持つテクノロジーを活用しながらSXを実行していくこと。Fujitsu Uvanceは複数の企業や国の様々な人々と繋がるエコシステムを構築していく壮大なミッションです。異なる業種や業態をつなぐクロスインダストリーの取り組みの間にはビジネスチャンスがありますし、共に取り組むことでさらに大きなインパクトを出せるはずです」と高橋は期待を込めます。
Fujitsu Uvanceではお客様のSXを実現するオファリングを展開しています。富士通の強みである顧客基盤を活かしたクロスインダストリーのビジネス展開、コンサルティングの強化とパートナー連携、デリバリーリソースの強化など幅広いビジネスを展開しています。
また、お客様の業務改善やデータ可視化だけでなくGHG排出量の削減などの成果にもコミットし、バリューチェーン全体を支えるクロスインダストリー型ソリューションの提供や、CxOや事業推進部門のお客様とともにイシュードリブンによる課題解決や戦略的パートナー企業との共同開発によるTime to Marketの短縮を目指す取り組みも進めています。
クロスインダストリーのSX実践例
人々や地球環境ならびにデジタル社会の発展にポジティブな変化をもたらすことを目指して富士通が取り組む、クロスインダストリーのSX実践例を4つご紹介します。
脱炭素交通の実現に向けたデジタルコラボレーション(WBCSD)
WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議:World Business Council for Sustainable Development)が推進する「企業間データシェアリングによる脱炭素交通」の一環で、オランダのコンサルティング会社アルカディス(Arcadis)とイギリスのエネルギー会社ナショナルグリッド(National Grid)と協働で行った実証実験です。
EVステーションにおける電力のグリーン度を可視化し、富士通のテクノロジーを使って配送事業車両のルートの最適化だけではなく、グリーン度が高い時間帯にEV充電ができるよう最適な時間帯や場所への誘導シミュレーションを行いました。その結果、事業者のEV充電によるCO2排出量を15%削減できることを実証しました。
リサイクル素材の環境価値化プラットフォームの実現(帝人株式会社)
帝人株式会社様とはリサイクル素材の環境価値化プラットフォームの実現を目指した共同プロジェクトを2022年7月から開始しています。
このプロジェクトは、帝人様のライフサイクルアセスメントの算定方法や富士通のブロックチェーン技術を活用し、リサイクル素材の利活用や環境配慮設計の実現に向けたプラットフォームの構築とその市場適用に取り組むものです。
「AI需要予測サービス」による店舗マネジメントの最適化(株式会社トリドールホールディングス)
飲食チェーンを運営する株式会社トリドールホールディングス様は、富士通が開発した「AI需要予測サービス」を、国内の「丸亀製麺」全店舗で採用しています。
気象データや、トリドールホールディングス様が保有するPOSデータなどに基づき、店舗ごとの日別、時間帯別の客数や販売数を高精度に予測することができます。
このシステムによって、店舗スタッフの適正配置やスタッフ個人の知見で行っていた発注業務、うどんの仕込み量の最適化、店舗空調の適正稼働などが可能となり、食品ロス削減、店舗の運営業務効率化やエネルギーマネジメントの実現に貢献します。
環境価値取引エコシステムの市場活性化を目指す共同プロジェクト(株式会社IHI)
株式会社IHI様とは、カーボンニュートラルの実現に向けた貢献と新たな環境価値取引エコシステムの市場活性化を目指した共同プロジェクトを2022年4月から開始しました。
これは、カーボン・クレジットなどを活用した環境価値取引への需要の高まりを背景に、IHI様と富士通がブロックチェーン技術やカーボンニュートラル関連技術に基づくそれぞれのビジネス知見を活用し、環境価値流通プラットフォームの市場適用と活性化を目指す取り組みです。両社は環境省のJ-クレジット(温室効果ガスを削減・吸収した量を国がクレジットとして認証する制度の一つ)の実証事業に協力者としても参画しています。
富士通の強みとSX実現に向けて必要なアクション
前述のように、各業種のステークホルダーとその間に存在するホワイトスペースを同じデータ活用の仕組みでつなぎ、一元化されたデータを活用することでこれまでにない解決策やビジネスを導き出すことができます。ここにFujitsu Uvanceのクロスインダストリー・アプローチの強みがあります。
「富士通には複数のブロックチェーンをアグリゲーションできる『ConnectionChain』(コネクションチェーン)や、理化学研究所と開発を進めてきたスーパーコンピュータ『富岳』に代表されるコンピューティングパワー、量子技術など最先端のテクノロジーがあります。これらを活用して世界が直面する社会課題を解決していきたい。私たちは世界中のたくさんのお客様と一緒に仕事をしておりますので顧客基盤を活用した知見も豊富にあります。業態や業種を超えた柔軟かつ最適なエコシステムの構築を、テクノロジーとデータ活用の力を使って実現していきたいと考えています」と高橋は力を込めます。
Fujitsu Uvance調査レポート
富士通とフィナンシャル・タイムズが共同で世界15カ国1000人のビジネスリーダーを対象に実施した調査から明らかになった「サステナビリティ・ギャップ(サステナビリティの重要性の理解と進捗状況との間にある大きな乖離)」の実態と解決のヒントを解説した調査レポートを公開しています。
取り組み事例
EV事業車の充電時のCO2排出量15%削減を実証: カギは企業間データ連携