価値創造経営を導く「データ×AI」駆動のマーケティング変革
Article|2024年10月28日
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「デジタル・ダーウィニズム」の潮流がグローバル社会・経済を覆っています。チャールズ・ダーウィン氏を代表する自然学者が適者生存をもとに進化論を説いたように、不可逆的なテクノロジーの進化への対応に遅れた企業は加速度的に競争力を落としかねない世界が急速に広がりつつあります。
富士通はテクノロジーを生み出す企業として、またテクノロジーを活用する企業として、国・地域や部門の枠を超えたデジタルトランスフォーメーション(DX)を急速に進めています。DXを持続可能な成長につなげるため、全社的な変革や新たな成長領域の育成にも取り組んでいます。
本レポートでは富士通 執行役員 EVP CMO(最高マーケティング責任者)の山本多絵子が、全体最適なマーケティングを実践するテクノロジーやデータを活用するカギ、グローバル事業展開の成否を握るパーパス起点のブランディング戦略をはじめ、富士通のマーケティング変革を通じて得た課題や効果を包括的に示します。本レポートをきっかけに、富士通とお客様の実践知をお互いに組み合わせて「統合知」に昇華し、テクノロジー起点で新たな価値を生み出すヒントになることを願ってやみません。富士通とともにDXを戦略的に積み上げ、未来志向で企業価値向上への旅に踏み出しましょう。
本レポートの一部を抜粋してご紹介します。全文は以下よりPDFをダウンロードしてご覧ください。
マーケティング変革の起点はパーパス
マーケティングの本質は「顧客を創造する」ことと言えるでしょう。「現代マーケティングの父」と呼ばれるマーケティング学者、フィリップ・コトラー氏は共著「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント」で、マーケティングを「ニーズに応えて利益を上げること」と定義しました。
変化のスピードが加速度的に速まる今、「ニーズに応える」というマーケターの役割は一段と重要になっています。富士通のマーケティング変革もここ数年でぐっと進みました。まずは現在の変革の旅の起点となった2020年ごろを振り返り、パーパスとFujitsu Uvance、マーケティング変革の関係を紐解いてみます。
富士通は2020年、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」というパーパスを定めました。パーパスを実現する新たな事業として2021年、Fujitsu Uvanceを立ち上げました。7つの重点分野を定め、テクノロジーと様々な業種の知見を融合し、業種横断でお客様のビジネス成長と社会課題の解決に挑む事業です(図表1)。
Fujitsu Uvanceという新たな事業をゼロから育てるには、全てのお客様にパーパスに共感してもらい、お客様が何を求めているかを把握し、ソリューションやサービスの改善にフィードバックする、という事業成長の好循環を回さなければいけません。マーケティングは好循環のエンジンとして、従来とは全く違うアプローチで市場での認知度を高め、新たな顧客層を開拓する必要に迫られたのです。
(出典)富士通作成
「データ」と「ブランディング」がカギ
好循環を促すのに必要なことは大きく2つありました。1つはデータです。新しい事業を展開するには、ソリューションやサービス、お客様、市場などのあらゆる情報を集めてマーケティングをデータドリブンに進化させなければなりません。2つ目はブランディングです。実は2021年にFujitsu Uvanceを発表したとき、ポートフォリオは整い切れていませんでした。地道に実績を積み上げ、パートナー企業との連携の枠組みを広げ、新たなソリューション開発につなげる仕組みの土台づくりにもデータ構築が必要だ、と考えていました。
変化の時代を成長の機会にするため、多くの企業も同じような挑戦をしていると感じています。成長に果敢に挑む企業ほど、マーケティングの重みは増しているのではないでしょうか。部分的な変革では効果を十分に得られません。不断の変革こそが「顧客を創造する」、ひいてはパーパスの実現に一歩近づくことになるのです。
マーケティング変革が企業の競争力を左右する
変化の時代において、新たな事業の成長に必要なマーケティング変革のカギは「データ」と「ブランディング」であると指摘しました。いずれもマーケティングの質を向上させるだけでなく、企業の競争力や企業価値をも左右する重要なバロメーターになっています。
世界の潮流は「テクノロジー×マーケティング」への投資増
米調査会社ガートナーが日米欧を含む世界の企業3,484人を対象に実施した「2024 テクノロジートレンド調査」(*1)によると、全てのソフトウェア購入の優先度の中で、マーケティングは28%とITセキュリティ(33%)に次ぐ2位でした(図表2)。また、マーケティング担当者が2024年に直面するビジネス課題として最も多かったのは「新規顧客の獲得」で、全回答の35%を占めました。新たな顧客を獲得するために、マーケティングテクノロジーへの投資を増やす必要性が高まっていることを示唆しています。
(出典)ガートナー「2024 テクノロジートレンド調査」を基に富士通作成
ブランド戦略は株価評価にも影響大きく
米ブランドコンサルティングのインターブランドが各国・地域の投資アナリストやIR担当者ら241人を対象に実施した調査「ブランドは株価にどう影響するか」(*2)によると、「ブランド戦略がPER(株価収益率)の変動に中~高レベルに影響を与える」との回答は76%を占めました。ブランド戦略の成否が株価や市場の評価に大きく影響することがうかがえます。
2つの調査はマーケティング変革のグローバルの潮流を示しています。テクノロジーへの投資は生産性を高め、イノベーションを生む環境を整える可能性が高まります。ブランド戦略の高度化は企業や事業の未来に対する市場の理解を深め、全てのステークホルダーからの信頼を醸成する源泉となり得ます。これらを実践し、継続することが持続的な企業価値向上にとってますます重要な役割を担うと考えています。
信頼と価値の創造を目指すマーケティング変革の現在地
パーパス実現につなげるFujitsu Uvanceをグローバル展開するため、データドリブンなマーケティングの仕組みを整え、ブランド戦略を磨こうと模索しています。マーケティング変革は道半ばですが、少しずつ効果を実感し始めています。
【データ】
パイプライン管理をグローバル標準化
データドリブンマーケティングの礎となるのは「One CRM」です。グローバルでCRM基盤とプロセスを統合し、商談マネジメントと情報共有を一元化する取り組みです。まずはパイプライン管理の標準化を最優先テーマと位置づけ、2022年に先行して稼働を始めました。
従来は地域やリージョンごと、事業部ごとにパイプラインデータがバラバラでした。グローバルで同じ基準で見えるようにすることで受注予測や原因分析、商談推進上の意思決定を素早くするとともに、報告やレポートにかかる負担を減らすことができます。Fujitsu Uvanceを中心とした商品軸でのパイプライン管理に切り替え、商談の支援をしやすくしたり、市場動向やお客様のニーズをモニタリングしやすくしたりしています。
変革は緒に就いたばかりですが、徐々にROIや生産性を測るデータを取れるようになってきたと実感しています。これらを事業部にフィードバックすることで、マーケティング主導で事業成長への循環を促すことができる体制が整い始めています。
システム・人材・分析を磨く
データドリブンの進化はまだ途上です。例えば「システム」。既存のシステムとさらに連携しやすくするよう、CRMとMAツールの改良を重ねなければなりません。「人材」の育成も重要です。データの管理、セキュリティの担保をより手厚くする体制が欠かせません。専門人材の層を分厚くすることが、データドリブンマーケティングの土台を固めます。「分析」も向上させなければなりません。ダッシュボードを拡張して可視化の範囲を広げ、より深い洞察を得る環境の整備が要ります。
AIが磨くマーケティングの真価
AIはマーケティングの真価を磨く強力な「バディ」だと確信しています。
2024年9月、米国で開かれたSalesforce主催のカンファレンス「Dreamforce2024」に参加しました。同社が開発した自律型AI「Agentforce」にAIのさらなる可能性を感じています。
自律型AIは、顧客からの問い合わせに対し、関連情報を社内外のデータソースから取得→回答作成まで人の介在なく完結できるとされています。また、コールセンターでは顧客の過去の購買履歴を参照し、会話の流れの分析や市場動向の把握を通じて最適な提案や解決策を導くこともできるようになるとのことです。テクノロジーの進化はマーケティングの真価を磨き、顧客理解をより深化させると改めて思います。
富士通は独自のAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」を持っています。2024年9月にはカナダのコーヒアと共同開発した大規模言語モデル(LLM)「Takane」のグローバル展開も始めました。マーケティングでも最先端のAIを実践知として培い、お客様とノウハウを共有できるよう、検討と実証、実行を重ねていきます。
【ブランド】
お客様と事例を積み上げ、価値を磨く
Fujitsu Uvanceでは、あるお客様とつくりあげた事例をもとに、別のお客様の課題解決にもつながるソリューションをつくって横展開をする。あるいはAIや量子コンピューターといった富士通のテクノロジーやパートナー企業とのアライアンスを生かし、新たなソリューションを開発する。こうした流れの節目でプロモーションをかけ、地道に認知度と実績を積み上げてきました。今も積み上げている最中です。
インターブランドの「Best Japan Brands」ランキングで、2024年の富士通のブランド価値は15億2300万米ドルと2020年から2倍超になりました。非財務諸表として公表しているお客様NPSも前年比プラスで推移し続けています。スピード感を持って中身を整えながらブランドを育てることが、変化の時代において「顧客を創造する」、ひいてはブランド価値を磨くことにつながるのだと実感しています。
マーケティング機能の「中央化」で顧客理解を深める
例えば、ある消費者がA社の調味料や食品のファンだとします。その消費者が美容や健康にも興味があることがわかりました。A社の美容・健康商品をプロモーションしようと思っても、事業部ごとのマーケティングだと調味料・食品と美容・健康の顧客データが一元化されていないため極めて非効率です。
富士通では各営業部門、事業部門とともに毎週、テーマごとに会議をしてマーケットの反応やビジネスパイプラインの進捗をデータで共有し、次のマーケティングの一手をつくるという仕組みを整えました。事業部でマーケティングを閉じていては、マーケティングの真価を高めることはできません。
エコシステムのプラットフォーマーを目指して
富士通のパーパスを実現するには、富士通だけでは不可能です。志を同じくする企業間で業界の枠組みを超えたエコシステムをつくることが欠かせません。
エコシステムをつくるだけでなく、エコシステムのプラットフォーマーになることを目指しています。データとテクノロジーの活用がお客様にとって新たな価値を創出する源泉にもなると考え、グローバルのパートナー企業・団体などと協力し、プラットフォーマーへの足掛かりを築こうと動いています(図表3)。
エコシステムを参画企業の「得意技」を結集するハブとし、複雑な社会やビジネスの課題解決につなげる。こうした循環を促すことが富士通にとっては「顧客を創造する」、参画企業にとっては「価値を創出する」ことにつながるのだと考えています。
(出典)富士通作成
おわりに
中学・高校時代はハンドボール部に所属し、ハンドボール一色の青春時代を過ごしてきました。ハンドボールは瞬発力、持久力、味方と相手チームの動きを把握する観察力、激しく揺れ動く試合の流れを読む洞察力が重要です。そして、時には想像を超える創造力あふれるプレーも必要になります。
マーケティングもハンドボールに通じる部分が多々あると感じています。お客様や社会の変化に敏感であり続けること。変化に半歩先回りをして先を見通す目を養うこと。お客様や社会をはっと思わせるようなクリエイティビティを備えること。これらは変化の時代におけるマーケティングでは一段と重要になってくるでしょう。
産業の垣根が壊れる中、成長領域を求めて新たな事業を立ち上げる動きはさらに広がるとみています。新たな事業の成長サイクルをさらに太く、強くするのがデータであり、AIをはじめとするテクノロジーです。パーパスを起点にした「データ×AI」駆動のマーケティング変革が、価値創造経営を照らすと考えています。
変革に終わりはありません。企業価値向上に少しでも貢献できるよう、今後も変革を続けていきます。持続可能な成長を実現するエコシステムづくりに、ともに挑み続けましょう。
富士通のデジタルマーケティングを語る
データに基づく意思決定に向けた環境構築への取り組み
富士通では、顧客体験の向上とビジネス成果の最大化に向け、デジタルマーケティング活用による変革を推進しています。本レポートでは、取り組み方針と成果、今後目指す姿を示します。
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