SX担当者が議論 サステナビリティ・トランスフォーメーションを加速させるカギ

ダボス会議でのパネルセッション

Article|2024-03-04

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サステナビリティ経営の重要性が高まる中、富士通はサステナビリティ・トランスフォーメーション推進の現状と課題を考えるパネルディスカッションを開催しました。

金融や教育機関などから専門家が登壇し、サステナビリティ目標を達成するカギとして、「大義を掲げること」、「目的を共有すること」、「相互利益をはかること」、そして「デジタルテクノロジーを優先して導入すること」という4つのポイントが重要であるとの認識で一致しました。

大義を掲げること

富士通は、「コラボレーション・ギャップを考える」をテーマにしたパネルディスカッションを、2024年1月の世界経済フォーラム年次総会、通称「ダボス会議」に合わせて開きました。ディスカッションには、各業界のサステナビリティ領域から4人のパネリストが参加しました。

オランダの大手銀行INGグループは、2016年頃から積極的にサステナビリティ経営を取り入れています。チーフ・コマーシャル・オフィサー(最高商務責任者)である Mark Pieter de Boer (マーク・ピーター・デ・ブール)氏は、ESG (*1) の視点を重視する経営方針は企業の成長を阻害するものではないと強調しました。

「ESG経営が成長を阻害するか否かという議論は、すでに決着しています。当行にとってESG経営は大きな成長要因となっています」とデ・ブール氏は述べました。そして、INGグループが過去2年間で1千億ユーロを超えるESG(経営支援)ローンを融資し、大きな利益を上げていることを紹介しました。

成果を出せた要因として、デ・ブール氏は、顧客向けのESG戦略と従業員向けの取り組みを進めたことを挙げ、特に ESG 融資をするにあたって明確な基準を導入する重要性を指摘しました。

「銀行業界は、新しい技術に関して十分な情報を持っているわけではありません。例えば、水素への大規模な投資を検討する際、リスク評価を担当する部門としては簡単には承認できません」とデ・ブール氏は前提を述べたうえで、INGグループが、顧客向けにネット・ゼロへの移行計画を策定していることを説明しました。この計画には、顧客のScope1~3のデータ、資本的支出(CapEx)、そして公開データの3種類の情報が活用されています。デ・ブール氏は「ESGは、いわば融資のリスク判断プロセスの中心にあるといっていいわけです」と述べました。

次に、デ・ブール氏はESGについて「必要なのは明確な方法論(メソドロジー)です」と述べ、2019年にINGグループ主導で導入した金融機関向けの評価枠組み「ポセイドン原則」を紹介しました。

この枠組みは、船舶への金融機関の融資計画が、国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)が設定する気候変動目標にどれだけ適合しているかを定量的に評価する共通の基準を策定したものです。デ・ブール氏によれば、各金融機関が異なるアプローチで船舶の脱炭素化に取り組んでいた中、複数の銀行が合意したこの枠組みは、海運業界初の一貫した投資判断基準となりました。

  • (*1) ESG経営: 温室効果ガス排出量や人権といった、環境 (Environment)・社会(Social)・企業統治 (Governance)の取り組みを重視した経営のこと

目的を共有すること

持続可能な開発のための世界経済人会議(World Business Council for Sustainable Development: WBCSD) のシニアディレクターでダイバーシティ戦略を担当する Carolien de Bruin(キャロリン・デ・ブルーイン)氏は、多くのステークホルダーにデータ共有を促すには、共通の目的が重要だと述べました。

デ・ブルーイン氏は、WBCSDの「不平等に取り組むためのビジネス委員会」が2021年に定めた10項目のアクション・アジェンダを紹介しました。この中では、企業が自分のサプライチェーンの中で人権侵害のリスクを軽減し、レジリエンスを強化すべき領域がどこか示していると説明しました。現在、52の組織・団体がWBCSDとともにこのアジェンダに取り組んでいるということです。

デ・ブルーイン氏は人への投資を推進する企業として、イギリスの消費財メーカーのユニリーバの取り組みを挙げました。ユニリーバは、同社に商品やサービスを直接提供するすべての人々が、2030年までに少なくとも生活賃金または生活収入を得ることを保証するという約束を掲げています。

「もし私たちがネット・ゼロへ移行せず、新たな雇用のために労働力のリスキリングやスキルアップに投資しないのであれば、近く、現実的な反動に直面することになるでしょう」とデ・ブルーイン氏は述べ、働く人の将来を豊かにする目的を共有し、人への投資を増やすよう呼びかけました。

相互利益をはかること

スイスを拠点にするビジネススクール、国際経営開発研究所 (International Institute for Management Development: IMD)のMisiek Piskorski (ミシェック・ピスコルスキ)教授は、デジタル戦略を専門に研究をしています。 ピスコルスキ教授は、サステナビリティに関するイニシアチブを加速させるカギは互恵関係にあると主張しました。

ピスコルスキ教授は、ライフサイエンス企業のバイエル・グループの農業における事例を挙げました。バイエル社は、厳しい気候や害虫に強い麦の品種改良に取り組むとともに農家に新しいデジタル技術を提供し、作物の収穫量の向上とより手頃な価格の作物をつくることに成功しました。

「これは農家にとって非常に大きなことで、農家は新たな収入源を得るとともに収益性を向上させることができました。また、バイエル社にとっては、サステナビリティ目標を達成するとともに、顧客と信頼関係を構築することができたのです」

デジタルテクノロジーを優先して導入すること

ピスコルスキ教授はまた、「多くの企業はデジタルテクノロジーなしではサステナビリティ目標を達成することは難しいと知っています」と指摘しました。

富士通APAC(アジア太平洋地域)のGraeme Beardsell(グレーム・ベアードセル)CEO はピスコルスキ教授の意見に賛同し、「複雑な協働のためのエコシステムは、強固な技術基盤に支えられていなければならないと思います」と述べました。そして富士通がPalantir、Microsoft、SAP、ServiceNowといった企業と提携し、サプライチェーン全体のデータ共有をサポートするエコシステムの構築に取り組んでいることを紹介しました。

また、ベアードセルは富士通APACがタイにおいて、現地企業とサプライチェーン全体での協業を進めていることに触れ、実際にデータ共有の取り組みを進めていることを強調しました。

「私たちはリアルタイムのデータを管理するシステムを構築し、ハイパフォーマンス・コンピューティングとAIでネットワークを支えています。企業がサプライチェーン内のあらゆるデータを可視化し、サステナビリティ目標を達成できているかどうか確認できることを目指します」

パネリストは最後に、サステナビリティ経営の成功を確実にするためには、4つの重要な柱があるという点で合意しました。

  • 大義を掲げる: INGグループのデ・ブール氏は、サステナビリティのフレームワークについて、他企業も利用できる業界基準を作ることが重要だと述べました。
  • 目的を共有する: WBCSDのデ・ブルーイン氏は、大規模な投資を必要とするイニシアチブを進めるためには目的の共有が必要だと述べました。
  • 相互利益を目指す: IMDのピスコルスキ教授は、組織は投資に目に見えるリターンを求めるものだとの認識の上で、サステナビリティへの取り組みを加速させるには関係者の相互利益を図ることが重要だと述べました。
  • デジタルテクノロジーを優先して導入する: 富士通APACのベアードセルCEOは、適切な技術的基盤と適切なデジタルツールがなければ、コラボレーションやデータ共有は不可能だと述べました。

2024年CxO調査の結果が示すもの

本パネルディスカッションで議論されたサステナビリティ・トランスフォーメーションをめぐる現状と課題について、富士通株式会社は2023年11月から12月にかけて、15か国の企業経営者層約600人を対象に、アンケート調査を実施しました。
2024年1月に発表した速報値によりますと、70%が「サステナビリティはビジネスの最優先事項だ」と回答し、取り組みの重要性を強く認識していることがわかりました。

一方で半数以上(51%)の回答者が、推進の阻害要因として、データ共有をめぐり「ステークホルダーからの十分な協力が得られない」と指摘しました。多くの経営者層が協働やデータ共有の方法、デジタルツールの選び方などをめぐり課題に直面していることがわかりました。今後はデジタルテクノロジーとサステナビリティをどのように融合させるかが、企業がイノベーションを進める上でのカギとなると言えそうです。

この「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)に関するCxO意識調査2024(仮)」の詳細な調査内容と分析結果について、2024年4月に公表される予定です。

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