【サプライチェーン改革】技術は揃った。あとはやるだけだ
NewsPicks|2023年12月15日
この記事は約5分で読めます
製品の原材料・部品の調達から販売に至るまでの一連の流れを指す、サプライチェーン。
消費者の目線からECサイトの迅速な配達や、商品がずらりと並ぶコンビニの棚だけを見れば、そこには何の問題もないように見えるかもしれない。
しかし、部分的な便利さの裏側には、さまざまな非効率や問題が隠れているという。
そのサプライチェーン問題の解決に挑むのが、富士通クロスインダストリー本部長の神俊一だ。
「技術はすでにある。あとは実行に移すだけ」と語気を強める。
デジタル化しづらい「モノ」の世界で、どのようにサプライチェーンの全体最適を可能にするのか。神が語った。
その商品は、どこから来たの?
──近年はパンデミックや災害などの不測の事態によるサプライチェーンの分断や、ドライバー不足による物流危機などの問題をよく耳にするようになりました。サプライチェーンの現状について、どのような課題意識をお持ちですか?
神:「なんで今すぐ行動に移さないの?」というのが、正直な気持ちです。
今挙がったようなサプライチェーンの課題は、なにも最近になって突然発生したわけではありません。すでに10年以上前からさまざまな非効率が存在していたにもかかわらず、解決に向けた動きがほとんど行われてこなかった。
私は、この状態を何とかしたいと考えているんです。
──具体的にどのような非効率が存在しているのでしょうか?
まずは消費者はもちろん、多くの企業さえも、サプライチェーンの全体像を把握できていないという点。
顕著な例が、数年前からアパレル業界でクローズアップされている、児童労働や強制労働の問題です。
これは原材料がどこで誰によって生産され、どのような環境下で製造・加工されているのかといったプロセスを、洋服を製造・販売する企業が追跡できる仕組みがないことが原因です。
──一方で一消費者からすると、Amazonで商品を注文すれば翌日届くなど、非常に便利。サプライチェーンはちゃんと機能しているようにも見えてしまいます。
確かに消費者目線では、非常によくできた仕組みに見えているかもしれません。
ですがそれは一面から見た「部分最適」であって、サプライチェーンの「全体最適」であるとは限りません。
私もECで買い物をしますが、翌日配送というのを忘れてうっかり留守にしてしまうこともある。
私からすれば、すぐに再配達してもらえるから便利ですけれど、宅配業者からしたらえらい非効率ですし、CO2排出量の増加にもつながります。
──消費者の便利さのために、非効率が生まれていると。
ええ。コンビニの棚にはどの時間帯に行ってもおにぎりが並んでいますね。
ですがこれも「いつでもおにぎりが買える」という部分的な便利さを追求するために需要を超える数を発注しているに過ぎません。
結果的に、賞味期限を過ぎた売れ残りは、大量に廃棄されています。
加えて自然災害が頻発する昨今は、サプライチェーンのレジリエンス強化も急務です。日本でも地震や洪水などによってたびたび輸送路が寸断され、物流がストップしています。
コロナ禍で工場や物流が止まり、モノの製造や配達が追いつかない事態に陥ったことは、記憶に新しいでしょう。
不測の事態にも柔軟に対応するためにも、サプライチェーン全体を可視化し最適化することが欠かせないのです。
技術は揃った。あとは実行するだけだ
──サプライチェーンの仕組みを変えるための課題はどこにあるのでしょうか?
神:さまざまな要因がありますが、データの統合と可視化ができていない点は大きな問題です。
いまやサプライチェーンは国や地域を超えてグローバルに広がり、多様なステークホルダーが関わる複雑な構造となっています。
そのため原材料や製品に付与されるデータは国や地域ごとにサイロ化しやすく、サプライヤー(供給者)によって精度や粒度もバラバラ。
そんな状態では、全体最適を図ることはできません。データの統合と可視化は、サプライチェーン改革の一丁目一番地なのです。
──とはいえ、これだけ複雑で壮大なサプライチェーンを可視化・最適化するのは、技術的にかなり難易度が高いのではないでしょうか?
誤解されている方が多いので声を大にしてお伝えしたいのですが、すでにサプライチェーンを最適化するテクノロジーは揃っています。
データの精度や粒度を揃えてプラットフォーム上でつなぎ合わせ、改ざんできないようセキュアに可視化をする。これは、ブロックチェーンや画像解析など、すでにある技術で実現可能です。
なぜそう言い切れるかといえば、富士通はその仕組みをすでにソリューションとして提供しているからです。
──では、実際にどのように富士通の持つソリューションを活用できるのでしょうか?
ここまでお話ししてきた通り、サプライチェーンには、データの可視化と統合から需給予測、災害予測までさまざまな側面があり、目的に応じて多様なテクノロジーが求められます。
これらを網羅的に提供できることが、富士通の強みだと考えているんです。
その土台には、サプライチェーンの透明性と信頼性を担保するデジタルプラットフォーム「Fujitsu Track and Trust」があります。
弊社がいち早く活用に取り組んできたブロックチェーンの技術により、原材料の生産・調達から、店頭での販売に至るまで一連の工程で生じる情報をつなぐことで、サプライチェーンを透明化することができるのです。
こうしたプラットフォームを土台に、さまざまなソリューションも提供しています。
たとえばAIによる需給予測の技術を用いて、おにぎり等の製品の廃棄を軽減できるソリューションも持っていますし、サプライチェーン上のCO2排出量を可視化するサービスも提供しています。
さらに富士通は、豪雨災害を引き起こす線状降水帯の発生を予測するスーパーコンピュータも活用している。
その予測データと、衛星画像による地表の高低差等のデータを照らし合わせれば、「洪水によっていつ、どの場所で道路が冠水するか」といった予測を立てられます。
トラックドライバーと連携し、そのルートを回避してモノを運ぶことも可能になるんです。
このように、富士通が網羅的に持つテクノロジーを組み合わせることで、サプライチェーン上に散らばる膨大なデータを速く、高い精度で処理し、同じプラットフォーム上で管理・分析できる。これは富士通だからこそのアドバンテージです。
──実際のビジネスでの活用事例はありますか?
最新の事例の一つが、アパレル関連企業 tex.tracerとの協業で活用したファッション業界向けのブロックチェーンです。
これは衣料品が消費者の手に届くまでのプロセスを可視化するソリューション。
原材料の生産者から加工製造、物流業者や販売業者までを見える化することにより、アパレルブランドのオーナーは自分たちのサプライチェーンが社会や環境に与える影響をトレースできます。
食品業界では、ベルギーのビール会社AB InBevと共に、同様の課題解決に取り組んでいます。
大麦の生産農家や醸造所、倉庫や運送業者など、ビールの生産・販売に関わるステークホルダーのデータを富士通のプラットフォーム上で統合・可視化することで、生産過程で必要な水やエネルギーなどの資源を効率的に利用できるのです。
なお、どちらのケースでも、消費者は商品についたQRコードをスキャンすることで、その商品を、誰が・どのように・どんな原材料で製造したかを知ることができます。
消費者にサプライチェーンの情報を共有することは、企業や製品のブランド価値の向上にもつながります。
たとえば飲料会社が、「味はおいしいのに形が不揃いというだけで廃棄されていた果物を使ってジュースを作りました」という売り出し方もできます。
このように、サプライチェーン問題に取り組むことは、マイナスをゼロにするだけではなく、新たな付加価値を持つ商品やサービスの開発といったプラスの効果も生むのです。
社会課題解決とビジネス両立のジレンマ
──テクノロジーの進化によってできることが劇的に増えたとはいえ、かなり難易度の高いチャレンジです。どんなところに難しさを感じていますか?
神:私たちも営利企業である以上、利益を出さなければいけない。ビジネスと社会課題解決のバランスをどう取るかは本当に難しく、悩ましいところです。
それを痛感した出来事があります。2022年に富士通は、イギリスの電力会社などと共同で脱炭素社会の実現に向けた実証実験を行いました。
食品や飲料を配達するEV車の運行や充電に関するデータと、使用する電力のCO2排出量のデータをつなぎ、「どの場所でどの時間帯にEVを充電すると、CO2を減らせるか」を可視化して、牛乳配達の事業者に提供するという内容です。
その結果、同事業者のEV充電によるCO2排出量を15%削減できたことが実証されました。
意義深い実証実験だと自負しているのですが、いざこの仕組みをサービスとして販売しようとすると、途端に高い壁が立ちはだかる。
食品や飲料の配送を担う事業者の大半は中小企業で、脱炭素の取り組みのためだけに高いコストを払う余力はありません。
社会課題の解決につながるとわかっていても、お金を出して買ってくれる会社がなければビジネスとしては成立しない。これはものすごいジレンマです。
──それでも神さんが諦めず、サプライチェーンの変革に取り組む原動力は何でしょうか?
シンプルな答えになりますが、「世の中にとって本当に良いことをしたい」という思いが私のモチベーションです。
私が富士通に入社して最初に携わったのは半導体の開発でした。当時は日本経済が右肩上がりで成長していた頃で、当社も新しい工場を建設し、大量に半導体を製造して販売していた。
半導体を必要とする家電製品や電子機器もどんどん増えて、作れば作るほど売れる時代でした。
それによって確かに人々の生活は便利になりました。しかし、それが社会や環境にとって良いことだったのかと考えると、イエスとは言い切れない自分がいる。
今振り返れば、大量生産・大量消費のビジネスモデルが環境に負荷をかけていたのは間違いありません。
その間に私も家庭を持ち、「本当に大事なものとは何だろう?」と自らに繰り返し問いかけました。
そして自分の子どもに「お父さんはどんな仕事をしているの?」と聞かれた時、「世の中にとってすごくいいことをしているんだよ」と胸を張って言える大人でありたいと思うようになったのです。
幸運なことに現在の私はデジタル技術を活用して社会課題の解決に取り組める立場にいます。
しかも富士通が起点となり、日本発の技術で持続可能な社会の実現に貢献できたら、これほどハッピーなことはありません。そんな未来を実現するため、これからもサプライチェーンの変革に粘り強く取り組んでいきたいと思っています。
2023/11/6 NewsPicks Brand Design
執筆:塚田有香
デザイン:田中貴美恵
撮影:小島マサヒロ
編集:金井明日香
NewsPicks Brand Designにて取材・掲載されたものを当社で許諾を得て公開しております。
神 俊一
Shunichi Ko
富士通株式会社 SVP グローバルビジネスソリューション クロスインダストリー事業本部長
1991年に富士通株式会社へ入社。 電子デバイス部門で自動車のCAN、LIN、 FlexRayなどの車載ネットワーク及び、自動車OS(AUTOSAR)や、機能安全などのグローバル標準化に従事。2012年より、市場のIoT化や、自動車のコネクテッド化に伴い、Mobility PF/Digital Transportation領域およびTrusted Society関連業務に従事。2023年4月より現職。
関連リンク
Advanced Store Operation Services
勘と経験からの脱却、廃棄ロスと機会ロスの削減に貢献