グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラムからの洞察 イノベーションは”家”から始まる

グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラム

Report|2024年12月16日

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「グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラム(Global Peter Drucker Forum)」は、経営思考の「ダボス会議」と呼ばれていて、社会における経営の役割を考えようと、毎年優れた思想家や実業家が集まります。今年のイベントは、「The Next Knowledge Work: Managing for new level of value creation and innovation」という重要なテーマに焦点を当てました。テクノロジーが産業に変革をもたらしている時代に、このフォーラムでは、人を中心に据えた経営やリーダーシップを守りながら、イノベーションを進めていく方法などについて議論が交わされました。

社会の柱としての経営

「グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラム」の会長であるリチャード・ストラウブ氏は、フォーラムの冒頭で「経営とはビジネス以上のものであり、社会の基盤である」と述べました。業種を問わず、組織が機能し、発展するかどうかは、効果的な経営が行われているかどうかにかかっています。ストラウブ氏は、「価値創造とイノベーションを進めるために、どのように経営を改善していくべきか」という問題を提起しました。

「その答えは経営者と知的労働者が下す決断の集約にある」とストラウブ氏は示唆しました。その決断は発展に必要な要素であり、組織、ひいては社会を形作ります。世界をより良くするためには、これらの要素が健全で、イノベーションとコラボレーションの原則に十分に合致していることを確かめる必要があります。

“家”としての職場

ジャンピエロ・ペトリリエリ氏は、現代の職場をヴェルサイユ宮殿に喩えました。ヴェルサイユ宮殿は国政と外交の象徴であり、同時に住まいでもありました。現代の職場は、仕事をする場所でありながら、同時に家のようであり、人々が生活の重要な部分を生きる空間でもあると主張しました。

ペトリリエリ氏は、「私たちは効率的なシステムと運用の導入に優れている一方で、人に対する配慮を欠いている」と指摘しました。その上で、「私たちは職場に命を吹き込む必要がある」と述べ、組織は、従業員がつながりや権限を与えられていると感じる環境を作ることを優先すべきだと主張しました。職場が”家“として機能することを通して、コミュニティと個人の自由を大切にすべきだとしています。

破壊を伴わないイノベーション

最初のパネルディスカッション「When Innovation Is Imperative」では、富士通のCEO室長の西恵一郎が、組織の変革を実現する方法について語りました。西は、イノベーションには破壊的な取り組みが必要であるという従来の常識とは異なる見方を提示しました。むしろ、混乱を引き起こすことなく、新しいアイデアを取りまとめる持続可能な方法を示しました。

会場の様子

西は、富士通が実践している変革の中心を担う3つの戦略を紹介しました。

外部のエグゼクティブを招聘する:
欧米では社外からリーダーを採用することが一般的ですが、日本では比較的少ないのが実状です。富士通は、外部から新たな視点を取り入れて、意思決定のレベル、事業運営のスタイルを変えることで、凝り固まった企業風土に向き合っています。

キャリアの流動性を促進:
過去数年間で約3万人の富士通の従業員がポスティングに手を上げ、1万人が社内のさまざまな部署に異動し、多様な経験とスキルを習得しています。個人の視野を広げるだけでなく、組織としてのスピードと適応性を高めることにも役立ちます。

オープンなコミュニケーションの促進:
従業員は、定期的に開かれているタウンホールミーティングで、CEO や役員らと直接話をすることができます。これらのセッションを通して、職場の風通しを良くして信頼を築くとともに、従業員が会社としての役割を理解し、つながりを感じられるようにしています。

西は、「これらの戦略には従業員一人ひとりと組織の目標を一致させる狙いがあり、自分の仕事が個人の成長と会社の成功にどのように貢献しているかを理解するのに役立つ」と強調しました。自分の仕事がどのように人々の暮らしを豊かにして組織に価値を生み出すかを考えること、富士通はこれを「パーパス・カービング」と呼び、従業員一人ひとりに促しています。

AI:イノベーションの触媒

AIはイノベーションを加速させ、ヘルスケアなどの重要な分野で成果をあげる強力なツールとなりました。こうした中、富士通の欧州担当CTOであるジョン・ウォルシュは、AIによる変革の可能性について議論するパネルディスカッションに参加しました。

ウォルシュは、AIによる変革の可能性を示し、業界全体で確かな変革を推し進める力があると強調しました。その上で、「生成AIが変革をもたらしていますが、それはテクノロジーの1つに過ぎず、真の変革的な価値はより広範なAIツールとテクノロジーにある」と主張しました。

会場の様子

持続可能性の推進

グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラムでは、会場でのセッションのほか、世界のビジネスリーダーへのインタビューなどをライブやオンデマンドで配信する「ドラッカー・フォーラムTV」が放送されました。このドラッカー・フォーラムTVに出演した富士通のESGおよびサステナビリティ開発責任者であるヴァレリー・オースターホフは、サステナビリティにおける富士通のリーダーシップについて語りました。

オースターホフは、顧客のサステナビリティ目標の達成を支援する取り組みとして、「アドバンシング・ネットポジティブ・プログラム(Advancing Net Positive program)」を紹介しました。これは、Economist Impact社と共に2025年2月に発表する予定で、企業や組織のサステナビリティの取り組みを評価し、ネットポジティブになるためのロードマップを描くのに役立つ指標を提供します。

フォーラムについての考察

富士通の北欧・西欧デリバリー責任者であるジャン・マルク・シャンマスは、グローバル・ピーター・ドラッカー・フォーラムを「その年のテーマに対して学術的な視座を示し、市場動向や業界の課題に対する潜在的な解決策につながる貴重な洞察を提供するプラットフォーム」だと評しました。また、富士通の西欧デリバリー責任者であるフランシスカ・ソレルは、「新時代の経営に必要な革新的な取り組みについて、ソートリーダーや専門家、同業者などと対話するための絶好の機会」だと述べました。

ピーター・ドラッカーが指摘したように、21世紀の経営にとって最も重要な課題は、知的労働とそれに従事する人たちの生産性を向上させていくことです。AIの活用から人を中心とした職場環境の醸成まで、ここで議論された課題は、組織が変革の時代に適応するだけでなく、リードしていこうと取り組む中で不可欠なものとなるでしょう。

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