非連続時代の収益創出エンジンを創る:CROが取り組むべき6つのKey agendaとは
Article|2025-2-7
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非連続な時代に直面する企業はどうすべきでしょうか。指をくわえて前例踏襲を放置したままでは、たちまち国際競争力を失いかねません。持続的な企業価値向上のためには変化の兆しをいち早く掴み、既存の常識を疑い、自ら変革してクライアントへの提供価値を不断にアップデートし続けることが重要です。
自社の提供価値をアップデートし続けるには、CEO(最高経営責任者)の右腕として全社横断で変革をけん引する新たなリーダーが必要です。現代のような不確実性が高まるビジネス環境下で一段と重要性を増しているのが、CRO(Chief Revenue Officer、最高収益責任者)という役割です。
CROは大きく2つの役割を担います。1つは「提供価値の最大化」です。2つ目は「収益の最大化」です。いずれも、データドリブンによって組織のサイロを破り、収益の創出エンジンを創ることがカギとなります。これらの役割を通じ、変革の実効力を高めるには「Portfolio」「Insights」「Capability」「Economics」「Behavior」「Intimacy」という6つの重要課題(Key agenda)に取り組み、企業を進化させなければなりません。そして、6つのKey agendaを実践するのは「データ×人間力」の融合です。
本レポートでは企業のC-suiteの方々を対象に、CROが果たすべきミッション、CROによる収益への効果、CROが取り組むべき6つのKey agendaを、富士通の実践知を交えて包括的に示します。成功へのテンプレートはもはやありません。CROという役割の重要性と富士通の実践知を通じ、非連続時代における持続的な企業価値向上へのヒントになれば幸いです。
本レポートの一部を抜粋してご紹介します。全文は以下よりPDFをダウンロードしてご覧ください。
1. CROが担う2つのミッション
CROという役職は2000年代後半から2010年代にかけて登場したと言われています。もともとは比較的規模が小さいスタートアップで生まれた仕組みです。事業全体を横断的に統括し、新たな市場を競合に先んじて開拓することで収益基盤をより強く、広くする、というのが広義の役割とされています。
CROが担うべきミッションは2つの「最大化」に集約できます。1つ目はクライアントへの提供価値の最大化です。ダイナミックに動くビジネス環境の中、クライアントのニーズは複雑に絡み合い、自社が提供できる製品やサービスはすぐに陳腐化するリスクが高まっています。製品やサービスのライフサイクルがどんどん短くなる現実に対応するには、End to Endでクライアントに伴走し、経営変革をサポートする体制を整えることが欠かせません。
2つ目は収益の最大化です。カギとなるのはデータです。商談のリードやパイプライン、クライアントの声、市場データを可視化する。フロント組織や営業部門が客観的なデータをもとに連携し、提供価値やサービスを磨く。個別最適ではなく、全体最適を実現するデータドリブンマネジメントの徹底によって新たな収益を生む。そんな仕組みづくりが求められます。データは言葉や慣習を越えた共通言語です。組織間、あるいはグローバルに散らばる拠点間のサイロ化を打破しなければ、収益の最大化はおぼつかないでしょう。
CROはクライアントの最大の理解者であるべきです。クライアント自身が気付いていないかもしれない課題を探り、解決への道を拓き、共に歩むことが求められます。そして、最大の理解者となるには市場とクライアントの変化に常にアンテナを張り続け、変化に先んじて自社を変革する、つまり2つのミッションに不断に取り組むことにコミットしなければなりません。
2. 前例踏襲を破り、成長をけん引する
非連続時代でも成長を続ける企業の多くは、組織のサイロを打ち破ってシームレスに繋ぎ、自社の人材やデータ、知見を戦略的資産に昇華しています。米マッキンゼー・アンド・カンパニーは2023年に公表したレポート「How CROs are propelling growth from the C-suite」(*1)で、CROのような役割を持つ「フォーチュン100」企業は同業他社よりも1.8倍高い収益成長を示すと分析しました。
一方、CROを適切に配置するには困難が伴います。マッキンゼーによると、フォーチュン100企業のうちCROを配置しているのは11%にとどまります。同社は「長年築いてきた体制の変更には時間がかかり、多くの企業が新たな環境をどう乗り切るか、まだ模索している」と分析しています。
CROを置き、役割を最大限に生かすには、既存の組織やマネジメントはもちろん、経営層を含む行動様式や企業文化も変革していく必要があります。大企業(特に日本企業)ほど、過去の成功体験をばっさりと捨てるには抵抗があるかもしれません。富士通も少なからず同じ悩みを抱えています。変革はいまだ道半ばですが、現状への強い危機感を経営陣で常に共有し、一歩ずつ前に進めています。
3. CROが取り組むべき6 Key agenda
本章では富士通のCROとしてのKey agendaを紹介します。事業モデルなどによって各社のCROとしての課題は様々です。ただ、ポートフォリオの最適設定と実行、データに基づく科学的なマネジメント、クライアントとの信頼構築と人間力を重視したチームづくりの推進をベースに「自社の提供価値の向上」と「収益の向上」を両立する、という基本的な考え方は業種や規模を問わず、多くの企業にとって共通でしょう。
私がCROに就任したのは2023年4月です。当時、日本では今よりもCROという役職は一般的ではありませんでした。米欧などグローバル企業のCROとの意見交換を交え、自分なりに「CROの課題は何か」を問い詰め、富士通の変革に1つずつ反映しています。
以下、CROが取り組むべき6つのKey agenda(図表①)を「マネジメント変革」「提供価値変革」「行動変革」の3つの変革に落とし込み、それぞれを富士通の実践知を交えて示します。
![提供価値と収益の最大化を目的とした6つの変革要素を示す図です。 左側は提供価値最大化のための3つの要素(ポートフォリオ、インサイト、能力)を、右側は収益最大化のための3つの要素(親密度、行動、経済性)を示しています。中央の円グラフは、6つの要素が相互に関連していることを示しています。各要素には具体的な項目が記載されています。](/-/media/Project/Fujitsu/Fujitsu-Activate/insight/tl-onishi-cro-20250207/fig01-tl-onishi-cro-20250207-809x440.jpg?h=440&iar=0&w=809&rev=0094d4dc1f1b4163b6bcdd33f308cfb8&hash=4BFCDE0263727B3878501F8E388A204C)
(出典)富士通作成
◆マネジメント変革
①Portfolio
ビジネス環境の変化に適応する、クライアントのニーズに適応する。非連続時代ではこの2つを両立させることが欠かせません。そのために実践したのが事業ポートフォリオの再構築と、グローバル標準のアカウント戦略の強化と、戦略を徹底して遂行する体制の再構築です。
事業ポートフォリオの再構築に関して富士通は2021年、パーパスを実現する新たな事業としてFujitsu Uvanceを立ち上げました。富士通はもともと、官公庁や企業向けに個別のシステムを開発して納入するビジネスモデルを主流としていました。変化のスピードが激しくなる中、より能動的にお客様の課題を吸い上げ、お客様と共に課題解決への道を探る新たなアプローチが必要になっています。Fujitsu Uvanceはその象徴です。
市場の認知度もじわじわと高まり、サービスソリューション計画に占めるFujitsu Uvanceの売上高は2022年度の2,000億円から2025年度は目標値の7,000億円達成が視野に入ってきました。もっとスピード感を持ち、オファリングの拡充を進め、事業ポートフォリオの再構築をさらに加速させていきます。
アカウントポートフォリオでは、グローバル標準に基づくマネジメントを徹底しようとしています。富士通がグローバル市場においてお客様をどれだけ支援できるか、お客様とビジネスを一緒に展開する中でどれだけウィンウィンの関係を育めるか、などを考慮しています。こうした関係を持てるお客様をもっと増やし、お客様とのビジネス関係をより強め、社会や市場への影響を大きくすることを狙う体制を整えていきます。
②Insights
データドリブンマネジメントによる客観的なインサイト(洞察)をもとに仮説検証をする「未来予測型」の経営を推進します。そのために必要なデータ基盤やテクノロジーの導入に取り組んでいます(図表②)。
2022年に稼働したのがグローバル統一の顧客情報管理(CRM)プロジェクト、OneCRMです。従来はリージョンごと、事業部ごとにばらばらだったパイプラインデータをグローバルで同じ基準にし、受注予測や原因分析、商談推進上の意思決定を素早くします。Fujitsu Uvanceを中心とした商品軸でのパイプライン管理に切り替え、市場動向やお客様のニーズをモニタリングしやすい環境を整えます。
2024年10月にはグローバルで統合基幹業務システム(ERP)を刷新するOneERP+が日本で先行して始動しました。モノ・サービス・カネの流れを中心とする基幹・管理業務領域の変革と、ITプラットフォーム、人材・カルチャー変革を通じ、データドリブン経営の実現とオペレーショナルエクセレンスの追及を目指します。
OneCRMやOneERP+が動き出し、マーケティングから受注、案件創出や利益創出まで1つのプラットフォームに乗りました。さらにAIを使って受注や売上予測への取り組みにも注力しています。まだまだ確度の点では改善の余地はありますが、グローバルで連携しながら高いレベルに引き上げていきます。
![データドリブン経営によるインサイト強化の取り組みを時系列で示したものです。 2022年にはOneCRMを開始し、プライバシー管理を統合したグローバル標準で管理体制を構築しました。2024年にはAIを活用した受注・売上予測への取組みやデータ連携によるインサイト強化を行い、OneERP+を開始しました。2025年には現場マネジメントも含めた行動様式の変革を目指します。予測型経営の実現とインサイト獲得による戦略強化が最終目標です。](/-/media/Project/Fujitsu/Fujitsu-Activate/insight/tl-onishi-cro-20250207/fig02-tl-onishi-cro-20250207-809x550.jpg?h=550&iar=0&w=809&rev=9003558e44424531815663ba98c92835&hash=01190A1DCA46EC6255AD8EA0F47A915F)
(出典)富士通作成
◆提供価値変革
③Capability
クロスインダストリー領域でお客様の課題を解決したり、革新的な事業モデルを創ったりするために必要なのがコンサルティングのケイパビリティです。コンサルタントだけではなく、お客様と相対する全てのフロント部門の社員が身につける必要があると考えています。
2024年、富士通はコンサルティング事業としてUvance Wayfindersを立ち上げました。経営や社会の課題を解決する「ビジネス」と、富士通の強みである「テクノロジー」の2つのコンサルティングを両輪とし、計13のプラクティスを有機的に結び付け、不確実性が高い非連続時代をリスクではなく成長の機会にするために一気通貫で包括的に支援します。
コンサルティングのポイントは「伝える力」と「仕組みを動かす力」です。変化に柔軟なアジャイル型の思考をベースに、富士通の強みである「テクノロジー」「変革の実践知」「日・欧の顧客基盤」を融合し、お客様の変革をEnd to Endで支援します。変革の過程で出てきた課題を新たなオファリングに生かし、お客様の課題解決と富士通の提供価値の向上の循環につなげます。
④Economics
自社の提供価値の変革に応じて、戦略的・機動的な価格設定に改める取り組みも進めています。その際にカギとなるのは、自社にとっても、お客様にとっても経済性を両立させることです。
従来は「コスト積み上げ型」の価格設定でした。お客様の要望を請け負う、作り上げたものを売るという仕組みに終始していました。これでは付加価値を自ら能動的に高めるというモチベーションを阻害し、能動的にお客様の課題を解決するオファリングを生むことは難しいでしょう。
目指すモデルはテクノロジーをはじめとする富士通の強みを融合し、お客様、ひいては社会の課題を解決する実効性のあるオファリングを提供し続けることです。
お客様や社会の課題を解決する。お客様や社会の持続的な成長につなげる。これらを実現するために、富士通ならではの変革の道筋を描く。実効性のあるオファリングを開発する。オファリングを最適に組み合わせ、課題解決につなげる。お客様の経営や事業の変革、あるいは社会課題の解決に導くプラスの効果を付加価値と見立て、付加価値に応じた価格設定に改める必要があると考えています。
付加価値を高めて得た対価の一部を新たなテクノロジーやオファリングの開発、人材への投資に充て、さらに富士通の提供価値を高める好循環につなげていきます。提供価値の最大化に向け、今後も最適な経済性を確立する価格戦略を磨いていきます。
◆行動変革
⑤Behavior
マネジメント変革、提供価値の変革を推進するには、お客様と相対する全ての社員の行動、働き方を変えることが欠かせません。変革を実行する仕組みをいくら整えても、ヒトが変わらなければ変革の実効性を高めることはできません。重要なのは2点です。
1点目は「アカウンタビリティー(説明責任)」です。一人ひとりが富士通の代表という意識を持ち、富士通とお客様の将来像と経営の道筋を自らの言葉で語れるようになるのが理想です。
2点目はデータドリブンの実践です。もはや「営業は勘やひらめきが大事だ」という時代ではありません。ビジネス環境が複雑になり、お客様のニーズが多様化する中、従来にはない新たなお客様とのタッチポイントを探り続けなければなりません。データ分析とデジタル基盤を駆使した「デジタルセールス」を強化することで、データに基づくアカウントプランの改善を促し、新しいお客様アプローチに精通する、という新たな勝ち筋も見えてくると考えています。
⑥Intimacy
あまり聞き馴染みのない言葉かもしれません。「親密さ」「親しい関係」を表します。お客様のシニアマネジメント層と濃密な関係を築き、胸襟を開いて「根っこ」の議論ができるほどお互いの距離を縮めることがビジネスの成功を支える、と信じています。
他人との距離を縮めるために画一的な方法はありません。「ゴルフに行きましょう」のような、いわゆる営業トークあるある、にとどまっていては深い関係を築くのは難しいでしょう。重要なのは、一人ひとりがビジネスパーソンとしての素養を高め、「相手が何を成し遂げたいのか」「そのために自分はどんな役割を担えるのか」を常に意識することです。盲目的にサポートするだけでなく、お互いにとってのウィンウィンのポイントを探り、お客様一人ひとりを理解し、真のパートナーになることが求められます。
4. おわりに
非連続時代はもはや「当たり前」として受け止めなければなりません。リスクを避けることはできません。重要なのは、起こり得るリスクを常に把握し、きちんと管理することです。
そのために欠かせないのがデータであり、ヒトの成長です。信頼できるデータに基づき、ヒトが高いレベルで一貫性のある活動を遂行する。「データ×人間力」の融合がクライアントや社会の信頼を招き、自社のビジネスを加速させることにつながるのです。これらを実現するCROの役割はますます重要になるでしょう。
CROの役割を最大限発揮するには、デジタルトランスフォーメーション(DX)の手綱を緩めず、組織・ヒト・カルチャーや事業、マネジメント、オペレーションなど全社的な変革を切れ間なく続けることが必要です。収益創出エンジンを創り、持続的な企業価値向上への扉を開くには自社の優先課題に応じ、必要な変革をいとわない決断と実行力が欠かせません。
富士通の変革は道半ばです。CROとして6つのKey agendaは高い頂にも映ります。今後も変化を常に先取りし、前例や常識にとらわれず、変革と成長を実現していきます。持続的な企業価値向上を実現する変革に共に挑みましょう。
![穏やかな海で航海するヨットのデッキからの眺め](/-/media/Project/Fujitsu/Fujitsu-Activate/capabilities/consulting/consulting-kv-936x578.jpg?h=578&iar=0&w=936&rev=afbd29d22caa4b7ca20acf9ccd321b4a&hash=7CAC83AEBE412A39BAFC07AFC6121CB3)
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