「DX+ヨコ連携」で日本の産業は変わる

西山 圭太氏と古賀 一司

Article|2024年3月18日

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サステナブルな社会を実現するために、多くの企業がデジタルトランスフォーメーション(DX)やイノベーションの実現を試みているが、実際にその取り組みは容易ではない。真の変革を成し遂げるには、自社だけに目を向けるのでなく、より広い枠組みで自社のビジネスや業務に向き合う必要がある。そうした状況の中で、企業はどのような打ち手を講じるべきなのか。富士通 執行役員 EVPの古賀一司と、東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授の西山圭太氏が語り合った。

タテ割り意識が変革の壁に

西山:私が経済産業省の産業構造課長を務めていた当時に感じていたのは「日本の産業やビジネスはダイナミズムに欠けている」ということです。多くの企業は業界で勝ち抜くための競争戦略に終始しており、オープンイノベーション、すなわち「業種なき産業構造」には目が向いていませんでした。現在もこの状況は基本的に変わっていません。日本企業は自前主義、自社の業種・業界から物事を考える「タテ割り」の意識が強く残っています。このように自社の業種業界だけにとどまり続け、異なる業種・業界、つまり「ヨコ」にも範囲を広げるという発想に至っていない点に課題があります。

東京大学 未来ビジョン研究センター  客員教授 西山 圭太氏
東京大学 未来ビジョン研究センター 
客員教授 西山 圭太氏

古賀:西山先生がおっしゃるように、業種・業界のタテ割りの意識があるがゆえに物事を個別に進めていくというのは、日本の大きな課題だと認識しています。例えば、富士通には全国に約70カ所のパーツセンターがあり、メンテナンスに必要な部品を2時間以内に届けられる体制を整えています。同じように、全く異業種のある建材会社のお客様も、全国各地に拠点を持っています。どのような業種・業界であっても、全国津々浦々に商品を届けるために同じことをしているわけですが、このように業種・業界ごとにタテ割りとなっている構造には、潜在的な非効率性や業務の無駄が多く潜んでいるのではないかと捉えています。

富士通株式会社 執行役員 EVP グローバルテクノロジーソリューション 古賀 一司
富士通株式会社 執行役員
EVP グローバルテクノロジーソリューション 古賀 一司

西山:まったく異なる業種・業界でも、実はそっくりな業務はたくさんあります。だからこそ、さまざまな企業が行っている業務をいったんバラバラにしてみる視点が重要です。業務の共通要素を見つけ出して相互利用することが効率的であるのに、日本では、例えば3つケースがあればそれぞれに合わせて3つのサービスを個別に作り込むことがお客様にとっての価値だと考える企業が少なくありません。

古賀:そうですね。日本企業の場合は、システムに対して非常に詳細な要求をしがちです。それもDX推進における大きな課題だと考えています。個々の要件に合わせて作り込んだり、利便性の高い細かな機能を実装したりすることは、今の時代では必ずしも生産性向上に寄与するとは限りません。

西山:おっしゃるとおりですね。確かに、細かく作り込んだサービスが10年後も全く変わらず必要だという前提があれば作っても良いでしょう。しかし、企業を取り巻くビジネス環境が変わったときに対応が困難になる。細かく作りこむことは便利そうに見えて、実は変化へ脆弱になってしまうというデメリットがあります。

カギは「抽象化」と「汎用度の高い標準化」

古賀:これから必要なのは、西山先生が指摘されたように共通要素を見つけ、標準的・汎用的なサービスにしていくことだと考えています。もちろん、汎用度が低いと結局は個別要件が増えてうまくいかないので、「汎用度の高い標準化」を推し進め、サービスのレベルを向上させる必要があります。

例えば当社でも、グローバルに複数拠点があるグローバルデリバリーセンター(グローバルに標準サービスを提供)にて、サービスの標準化・自動化を進め、品質の高いセキュリティサービスを提供しています。ITインフラの観点では、適材適所にクラウドとオンプレミス(自社所有)をハイブリッドに使い分ける事例も増えてきています。これもまさに汎用性の高い標準化とその応用だと思っています。

東京大学 未来ビジョン研究センター 客員教授 西山 圭太氏

西山:標準化を進めるためには、私は、意識改革すなわち思考法や発想を変えることが必要だと考えています。その際に重要なキーワードが「抽象化」です。目の前にある事業をいったん忘れて自分の仕事を抽象化し、例えば他の業種業界ではどうしているのかを参考に考えてみる思考法が必要です。これができなければ、DXの取り組みが局所的なものになり、本質や目的を見失ってしまいかねません。

富士通株式会社 執行役員 EVP グローバルテクノロジーソリューション 古賀 一司

古賀:確かに「抽象化」は大きなポイントですね。私たちIT業界でも、業務課題に対する細かい解決策ばかりを見るのではなく、本質的な課題は何かを問うところから始める必要があると実感しています。
富士通でも、これまで、お客様個別のノウハウを落とし込んだシステムをそれぞれ個別に開発することがありました。しかし、1社1社やっていくのではなくて、例えば最新のAIを使って問い合わせ対応を自動化する仕組みなどのノウハウは世界中で共通のものです。世界中でそうしたサポートを行いながら人々の生産性を上げていく。そのような観点で当社はデジタルワークプレイスというサービスを、さまざまな業界の生産性向上に向けて取り組んでいます。

西山:もちろん、各企業の業務にはどうしても共通化できない要素もあります。しかし、逆に言えばそれは各企業の強みとなる部分なのです。標準的・汎用的なサービスを取り入れた共通化の目的は、各企業にしかないユニークなビジネスへ集中的に投資するためです。言い換えると、競合他社との差別化につながる自社の強みのあぶり出しでもあるのです。

古賀:おっしゃるとおりですね。当社も組み合わせの妙をお客様にうまく提供しながら「本当に差別化できる領域」を抽出していくことが重要だと考えています。

企業間連携も視野に産業全体の変革を

西山:日本は深刻な人手不足の解決を迫られていますが、「タテ割り」の組織のままではこの先うまく回っていかないことがはっきりしています。ここまで触れたように共通化や抽象化の思考でDXを推進することはもちろん、その先の「サプライチェーンのDX」が求められます。サプライチェーン全体で変革が起きれば、サプライチェーンに含まれるすべての企業は受け入れざるを得ません。

サプライチェーンDXは、特定の業種・業界がなくなるのと同義です。例えば、モビリティ産業のサプライチェーンでDXが実現し、モビリティをモノとして売っていた企業がMaaS(Mobility as a Service)事業者へと移行するかもしれません。結果として産業構造そのものが変わってしまう、いわばインダストリートランスフォーメーション(IX)が起きることになると考えています。

古賀:IXが進む世界では、いままでとはまったく異なるプレーヤーがあらゆるところで出現し、そうしたプレーヤーが集まって新たな社会課題の解決につながっていくことでしょう。さらに、このようなクロスインダストリーの企業間連携を意識した取り組みが加速することで、持続可能性の実現を目指す経営戦略の変革、すなわちサステナビリティトランスフォーメーション(SX)の実現につながっていくはずです。

我々としても、多種多様な業種業界の枠を飛び越えて価値を提供できるクロスインダストリーな取り組みを推進していきたいと考えています。実際に、我々の新たな事業モデルである「Fujitsu Uvance」では、4つのバーティカル領域(「Sustainable Manufacturing」「Consumer Experience」「Healthy Living」「Trusted Society」)と、3つのホリゾンタル領域(「Digital Shifts」「Business Applications」「Hybrid IT」)を定め、業界横断の社会解決を目指しています。

例えば、医療業界といった個別の業種業界の課題解決に取り組むのではなく、Healthy Livingというように、人にとっての本質的な価値の向上にフォーカスするということです。

西山:1社だけで全体を変革することは容易ではありませんが、企業同士がつながり産業全体が変わっていけば、「自社もDXは必然的にやらざるを得ない」という方向性に向かっていきます。デジタルとは比較的遠かったモノづくりの企業もデジタルを使わなければなりませんし、複数の企業やサービスが連携する世界では、それ自体が1つの工場のようなものといえるでしょう。どこまでがデジタルでどこからがモノづくりという捉え方はもはや重要ではありません。これもIXがもつ意味合いの1つです。

古賀:富士通としても、他の業種・業界の各社やお客様と連携しながら、より大きな枠組みで持続可能な社会の実現を目指す活動をリードしていきたいと考えています。

西山 圭太氏と古賀 一司

本記事は2024年2月に制作したものです。所属・役職は取材当時のものです。
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