IT部門を事業部門の「未来のDXパートナー」に変革せよ
Report|2024年12月18日
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グローバルの経済社会情勢は刻々と変わり、新たなテクノロジーが続々と生まれています。市場のニーズもどんどん多様化・複雑化し、ビジネス環境の変化のスピードは加速度的に増しています。
かつてない「変化の時代」をリスクではなく、企業価値向上につながる成長の機会にするための変革があらゆる企業に求められています。成長の機会を掴む一翼を担うのがIT部門の変革です。「事業部門の要求に応える請負」「デジタルやITそのものの価値を提供するのにとどまる」といった、従来の役割から抜け出せなければ変化のスピードに対応できなくなり、成長への道筋は閉ざされかねません。
成長への道筋を拓くカギは、事業部門にとって「未来のDX(デジタルトランスフォーメーション)パートナー」になるIT部門に変わることです。そのために大きく4つの打ち手が必要となるでしょう。
1つ目は「IT部門の戦略実践と構造改革」です。経営戦略や事業戦略と歩調を合わせたIT戦略をもとに、現状とあるべき姿のギャップを埋めるためのマネジメント改革、ガバナンスの再構築を進めることが重要となります。2つ目は「最新テクノロジーの実装と事業への貢献」です。課題に応じて最適なテクノロジーの組み合わせを素早く見極め、事業部門と同じ目線で新たなソリューションを提案し、開発することが求められます。
3つ目は「情報システムと業務プロセス、IT組織のモダナイゼーション」です。IT戦略と連動し、適切な移行期間と移行に伴う影響を最小限にとどめる施策を打つことが必要です。4つ目は「ITのライフサイクルマネジメントの効率化と効果最大化」です。価値を上げるべき分野、終息すべき分野を把握し、合理化への工程表をもとに着実に進めることが欠かせません。
本レポートの一部を抜粋してご紹介します。全文は以下よりPDFをダウンロードしてご覧ください。
「変化の時代」におけるIT部門の役割とは
多くの企業のIT部門は従来、事業部門から依頼を受けた要件に則ってシステムを開発し、テストを繰り返したのちに事業部門に使ってもらうという役割を果たしてきました。IT部門が使う技術は外部のITベンダーに依存しがち、いわば「クローズド」な世界でしかテクノロジーを活用してこなかったと言えるでしょう。
IT部門としては変化に対応するスキル、行動様式や考え方の切り替えやアップデートがいまだ追いつき切れていません。また、IT部門の「顧客」である事業部門でもビジネス変革が不十分であるため、IT部門に「現状維持で問題ない」との思考を染みつかせている側面があります。これらの変革を実行しなければ真のIT部門変革、その先にある新たな価値創造を実現することはできません。
真のIT部門改革とは、「事業部門の要求に従って受動的にデジタルやITを導入する」という旧態依然としたIT部門の役割を抜本的に変えることです(図表1)。「能動的に事業に貢献する」という価値に軸足を移すことで、IT部門による経営機能へのインパクトをより高められると考えています。
最先端のテクノロジーや他社の先行事例へのアンテナを高くし、「オープン」な世界を舞台に様々なテクノロジーへの知見を持つ。事業部が気付いていないテクノロジー起点で「事業のあるべき姿」を提案する。事業部門を能動的に巻き込み、事業のあるべき姿を共有してスモールスタートで提案を実行に移す。成功体験を積み重ね、未来志向でIT部門と事業部門の密接なコラボレーションを構築する。これらの好循環を促すことで、IT部門を事業部門にとっての「未来のDXパートナー」に昇華することができるのです。
IT部門の価値・事業貢献の向上は道半ば
一般社団法人の日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が2024年4月に公表した「企業IT動向調査2024(2023年度調査)」によると、「IT投資で解決したい“中長期的”な経営課題」のうち、「次世代新規ビジネスの創出」を1位と答えた割合は12.3%と全体の2番目、「ビジネスモデルの変革」は同11.4%と3番目となり、事業への貢献を示す選択肢が上位に並びました。
一方、「IT投資で解決したい“短期的な”経営課題」では、「次世代新規ビジネスの創出」は3.8%と10番目、「ビジネスモデルの変革」は4.9%と6番目にとどまりました(図表2)。事業貢献につながるIT投資は必要であるとの認識は高まっている半面、優先順位はまだ相対的に低いことが読み取れます。
(出典)JUAS「企業IT動向調査2024(2023年度調査)」を基に富士通作成
また、調査会社ガートナー・ジャパンが2024年4月に日本企業のCIOらを対象に実施したITガバナンスに関する調査によると、「自社のCEO(最高経営責任者)がIT部門に抱いているであろう不満は何か」との問いに対し、「経営戦略に対してIT/デジタルを活用した積極的な提案がない」が39%でトップでした。次いで「ITがビジネスにどのように貢献しているかわからない」(35%)、「経営メンバーが納得するIT/デジタル戦略が描けていない」(28%)と並びました。CIOは経営層にとって価値のあるIT戦略、IT部門をつくれていないと自覚していることを示唆しています。
手をこまぬいている時間はありません。変化のスピードは加速度的に速くなっています。変革への着手が遅れるほど競合優位性は劣後し、成長の機会が縮みかねません。CIO主導で事業側のステークホルダー(CxO)と密に連携を取り、それぞれの目標に貢献できるデジタル・ITを生かす基盤を整えることが、価値創造の源泉となるIT部門をつくる土台となるのです。
価値創造の源泉となるIT部門をつくる4つの打ち手
価値創造の源泉となるIT部門をつくるには、具体的にどんな打ち手が必要となるでしょうか。本章では大きく4つの打ち手を挙げ、それぞれの取るべき変革のアクションを紹介します。
1. 部門の戦略実践と構造改革
経営戦略や事業戦略にIT部門としてしっかりとアラインすることが重要です。企業の方向性を定める大きな戦略に対し、IT部門も自分事として関与し、理解を深める。戦略を実行する上でIT部門が果たすべき役割をCxO間、あるいはIT部門間で対話をし、共有する。これらが最初のステップとなります。
アラインをした後、IT部門として経営戦略や事業戦略を後押しするIT部門の戦略をつくります。ITのインフラやアプリケーションがどこにどれだけあるか、コストはどれくらいかかっているか、どんな効果を生んでいるか。あるいは部門としてメンバーがどの業務に関わっているか、機能重複はないか、無駄な配置はないか。こうした自らの現状と課題をきちんと「見える化」する必要があります。
そのうえで、戦略で描く「あるべき姿」と、見える化による「現状」のギャップを埋めるために実行計画を策定し、プログラムマネジメントによって確実な実行に移します。経営戦略や事業戦略の進捗を常に見ながら、IT部門の戦略の調整も必要になるでしょう。国内外のグループ会社への目配りを行き届かせるため、意思決定のルールやガバナンスの仕組みを整えることも欠かせません。こうしたプロセスを、人材計画や組織設計と連動しながら定着させることが重要となります。
2. 最新テクノロジーの実装と事業への貢献
まずはグローバルの最新のテクノロジーに対する感度を高くして、事業部門よりもテクノロジーの知見やノウハウ、用途の可能性でアドバンテージを持つことが不可欠な条件です。業務用アプリやSaaSといったデジタルツールが広く普及する中、事業部門も「手段としてのデジタル」への理解は相当に深くなっています。
事業部門が求めているのは、事業部では気づかない視点です。IT部門が能動的に「なぜこのテクノロジーが必要なのか」というWhyを語れるようになることが求められています。さらに、「要件を満たす」という受け身ではなく、顧客(=事業部)の課題は何か、課題を解決するには何が必要か、といった能動的なオファリング型の業務サイクルに変えていくことも同時に必要となるでしょう。
3. 情報システムと業務プロセス、IT組織のモダナイゼーション
まずは①と同様、IT部門の現状を正しく把握することです。あるべき姿と現状のギャップをIT部門の戦略に落とし込み、どのタイミングでどんな施策を実行するかをきちんとシステムの移行計画に反映します。経営として、移行期間になるべく人繰りやコスト、既存の業務への影響を最小限にとどめることも大事です。
モダナイゼーションはシステムだけで完結しません。3年先、5年先を見据え、モダナイゼーションに伴う業務プロセスの改革、業務プロセスの改革に合わせたIT組織の改正も欠かせません。これらを同時並行で進めなければ、モダナイゼーションの真の実効性を担保することは難しいでしょう。
4. ITのライフサイクルマネジメントの効率化と効果最大化
①や③と共通しますが、サービスを提供するITの全体像として、現状の利用状況や効果、ライフサイクルコストを把握し、ポートフォリオとして評価可能な状態にします。それを中期の変革計画と照らし、IT資産への方針(変革、回収、維持、統合、終息など)の評価や判断をマネジメントプロセスに組み込むことが重要となります。
こうした方針においては、コストミニマム化と価値最大化への説明を正しくできるようになることが重要です。説明に即した対策を打つため、例えばアプリの統合やデリバリー方法の変更、オペレーションコストの削減、あるいは無駄なものの統合や廃止などの合理化策をつくり、計画を立てます。
これらの過程ではたくさんのデータが集まります。集めたデータを活用し、顧客対応の強化・緩和、新たな業務提案や改善案などにつなげます。データを単にITを減らす、合理化する手段だけではなく、戦略的資産として、価値創造のためにフル活用することも大事な視点と言えるでしょう。
トップダウンでFit to Standardの変革を
IT部門の変革を促すには、変化に対応できる思考や行動様式への変容が欠かせません。リスキリングや価値観の転換には少なからず抵抗を感じるメンバーもいるでしょう。変革に対するある程度の心理的な衝撃は避けられないことを承知のうえでトップダウンによる経営判断をしなければ、IT部門の変革も顧客である事業部のビジネス変革も限られ、業務プロセスを変えることもままなりません。
日本企業特有の商習慣では、変革を矢継ぎ早に打つのは難しい側面はあるでしょう。しかし、グローバル市場でし烈な競争に挑む企業にとって、日本のユニークな商習慣に閉じていてはグローバル競争に太刀打ちするのは極めて難しくなります。グローバルを基準としたFit to Standard(標準化)をあらゆる変革に落とし込み、できる範囲で着実に進めることが、企業価値向上への道を拓くのです。
富士通のコンサルティングアプローチ
4つの打ち手とそれぞれの変革を最適に一体推進するため、Uvance WayfindersのIT Value Transformation(ITVT)プラクティスは4つのロール(任務)を定義しています。クライアントの課題ごとにコンサルタントが一つのチームを組成し、強固な支援体制を整えます。
「IT部門戦略策定コンサルタント」は変革の全体像を統括し、IT部門変革を実現する構造改革方針と変革プログラムを導きます。現状評価と目標設定、目標と現実のギャップの把握、課題解決の優先順位付けと解決施策の検討・計画・実行・評価を担います。
「デジタル変革推進コンサルタント」は事業部門や業務ごとに最適なデジタル技術・ソリューションを適用することで価値創造をリードします。現状の業務プロセス、IT部門の事業部門・業務への貢献度を把握し、目指すべき姿と現実のギャップを埋めるための各種施策を実行します。事業や業務に応じて必要な知見が異なるため、分野ごとに技術専門チームと連携し、最適な推進スキームを整えます。
「ITモダナイゼーション推進コンサルタント」はIT部門のモダナイゼーションを進めるプログラムを計画し、実行します。モダナイゼーションへの移行に伴うさまざまな経営上の影響やそれらへの対応策に関する情報を精緻に分析・把握し、クライアントの経営陣と密に連携して適切な意思決定をサポートします。モダナイゼーション全般の計画を策定し、PoCやプロジェクトを推進するPMO(Project Management Office)、PgMO(Program Management Office)を担います。
「ITサービスマネジメントコンサルタント」はITサービスに関する業務領域のデジタル化とマネジメント領域のDXをリードします。日本企業のグローバル化の進展に伴い、国内だけでなく、各国・地域で展開するITサービスを含めたマネジメントの最適配置、ガバナンス再構築も支えます。
変化の時代に成長へのテンプレートはありません。経営戦略や事業戦略で目指す未来像=あるべき姿を示し、それらを強力に推進するIT部門の変革を実行することが確かな成長への第一歩になります。IT部門を未来のDXパートナーにできるか否かが、価値創造と持続的な成長のカギとなるのです。
中谷 仁久
Hirohisa Nakatani
富士通株式会社 Global Customer Success ビジネスグループ プリンシパルコンサルタント
大手組立製造業のお客様を中心に、業務改革・システム化企画・中期IT構想化・新規事業企画などのコンサルティング業務に従事。直近では製造業のサービス事業転換やバリューチェーン全体最適化など、製造業のトランスフォーメションをサポート。富士通総研・Ridgelinezを経て現職。
Uvance Wayfinders レポート
富士通のコンサルティング「Uvance Wayfinders」による、IT部門を単なる支援部門から事業部門の未来DXパートナーへ進化させるためのアプローチを解説。変革を実現する4つの打ち手、そしてそれを実現する独自の支援体制を紹介します。