持続的な企業価値向上を実現する「未来予測型」データドリブン経営

Article|2024-12-9

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「デジタル・ダーウィニズム」の潮流がグローバル社会・経済を覆っています。チャールズ・ダーウィン氏を代表する自然学者が適者生存をもとに進化論を説いたように、不可逆的なテクノロジーの進化への対応に遅れた企業は加速度的に競争力を落としかねない世界が急速に広がりつつあります。
 
富士通はテクノロジーを生み出す企業として、またテクノロジーを活用する企業として、国・地域や部門の枠を超えたデジタルトランスフォーメーション(DX)を急速に進めています。DXを持続可能な成長につなげるため、全社的な変革や新たな成長領域の育成にも取り組んでいます。
 
本レポートでは富士通 代表取締役副社長 CFO(最高財務責任者)の磯部武司が、「変化の時代」を持続的な企業価値向上の機会とするデータとテクノロジーの必要性、データを戦略的資産として生かす統合基幹業務システム(ERP)の導入と課題、ERPがもたらすデータドリブン経営の実践と目指す方向、データドリブン経営の真価を磨くAI(人工知能)活用の可能性、を包括的に示します。
 
変化の時代が当面続く可能性が高い今、企業には「持続的な企業価値向上」へのコミットがより求められています。CFOの領域においては、時代に応じて重点戦略を実行して事業成長を引き出し、キャッシュの創出力を最大化する。得られたキャッシュを最適に配分し、さらなる企業価値向上を促す。こうした不断の好循環を実現することが、市場から高い評価を得続ける道につながります。
 
本レポートをきっかけに、富士通とお客様の実践知をお互いに組み合わせて「統合知」に昇華し、テクノロジー起点で新たな価値を生み出すヒントになることを願ってやみません。富士通とともにDXを戦略的に積み上げ、未来志向で企業価値向上への旅に踏み出しましょう。
 
本レポートの一部を抜粋してご紹介します。全文は以下よりPDFをダウンロードしてご覧ください。

1. 限界を迎えた「個別最適」な社内システム

データドリブン経営の要諦は「データを全ての中心に置く」ことです。変化の時代の経営判断に必要なのはリアルタイムで収集し、網羅的で標準化したデータです。データを中心に業務プロセスを設計し直し、オペレーショナルエクセレンスも同時に追求することで、データドリブンの真価を発揮する土台が整います。

富士通は長い間、それぞれの組織がそれぞれの業務を効率化しようとどんどんシステムをつくっていました。その数はざっと4,000超です。データドリブン経営を真剣に目指そうと思ったきっかけはまさに「個別最適の極み」ともいえるシステムが限界を迎えたことでした。

「2025年の崖」のプレバージョンに直面

2010年代の半ばには「もう限界だな」と感じ始めていました。システムは老朽化しつつも何とかやりくりしてきましたが、膨大な数のシステムを同じレベルに合わせながら維持するのは大変な手間です。荒っぽく言えば、「2025年の崖」のプレバージョンが富士通内で起きた、ということです。

本社主導でデータドリブン経営をするための抜本的な全社変革をしなければいけない――。崖の端にじりじりと追いやられる危機感がいよいよ強まったことが、OneERP+プロジェクト始動のきっかけとなりました。準備期間を経て2020年1月、プロジェクト推進の全社横断チーム「グローバルプロジェクト推進室」が立ち上がりました。

2. 「データ文化の構築」はグローバルでも道半ば

欧米を中心に展開する国際的な経営コンサルタント、ホルヴァートグループ(本部ドイツ)が世界16カ国の企業のCFO約150人を対象に調査した「Horváth CFO-Study 2024」(*1)によると、「データドリブン型企業への変革にどんな優先順位を置いているか」との問いに対し、「最優先事項」と答えたCFOの割合は18%、「優先度上昇」との割合は63%となり、両者の回答の合計は81%に達しました。

一方、「自社のデータ文化の成熟度をどう評価するか」との問いでは、「優れたデータ文化を実現」との回答はわずか2%、「強固なデータを育む」も20%にとどまりました(図表1)。多くのCFOはデータドリブン経営への変革の重要性は感じていますが、実践できている企業はまだ少ないことを示唆しています。

自社のデータ文化の成熟度をどう評価するか・優れたデータを実現(2%)・強固なデータを育む(20%)・データ文化の構築に積極的に取り組んでいる(35%)・データ文化を構築する最初のステップを踏んでいる(28%)・データ文化を構築していない(15%)
図表1:データ文化をきちんと構築できていると評価する企業は少ない
(出典)「Horváth CFO-Study 2024」をもとに富士通作成

データドリブン経営の実践を阻むのは何だと考えているのでしょうか。「データ統合の導入を妨げている課題や障壁は何か」との問いに対し、最も多かった回答は「データ品質の欠如」で57%を占めました。次いで「データインフラの欠如」(49%)、「サイロ化した考え方と協力の欠如」(35%)と並んでいます(図表2)。

データドリブン経営に必要なデータはもちろん、データを集めるのに必要なERPを代表とするインフラシステム、データドリブン経営への理解を深めるマインドセットも変革に欠かせないピースである、と各国企業のCFOは訴えています。さらに「変化への抵抗」を挙げた回答も35%と高水準でした。

データ統合の導入を妨げている課題や障壁は何か・データ品質の欠如 57%・データインフラの欠如 49%・サイロ化した考え方と協力の欠如 35%・変化への抵抗 35%・従業員のデータリテラシーが限られる 34%・リーダーシップとサポートの欠如 17%・意思決定に役立つデータへの信頼がない 17%・プライバシーとコンプライアンスへの懸念 15%
図表2:データ品質やデータインフラだけでなく、マインドセットも重要な課題に挙がる
(出典)「Horváth CFO-Study 2024」をもとに富士通作成

変化の時代において、自ら変革の波に飛び込まず、個別最適なシステムと前例踏襲型の思考と行動様式に固執し続ければ、加速度的に競争力を失いかねません。いち早くデータ統合基盤を整え、データを戦略的資産に昇華してデータドリブン経営を実践することが、持続的な企業価値向上と市場における競合との差別化を生むことにつながるのです。

3. OneERP+が導くリアルタイムマネジメント

富士通のデータドリブン経営を支える変革、OneERP+は2024年10月、日本で本格稼働しました。OneERP+は、「リアルタイムマネジメント」「データ化・可視化」「ビジネスオペレーションの標準化」を重点施策に据えたOneFujitsuプログラムの中核となるプログラムです(図表3)。

OneFujitsu/合理的・迅速な意思決定を支える リアルタイムマネジメント,リアルタイムで得られる 高鮮度・高品質な経営 判断材料,デジタルツインを通じて得られる未来予測の判断材料/経営資源のend to endでのデータ化・可視化,ヒト・モノ・カネのデータ化・ 可視化,業務プロセス全体における 「ひとつなぎ」のデータ連携/グローバルでのビジネスオペレーションの 標準化,KPI・プロセス・ルール・ コード・ システムの標準化,どこで誰が実施しても 得られる均質なアウトプット/4リージョン・グループ会社横断,OneERP+,OneCRM,OnePeople,OneLicense,OneSupport,OneData
図表3:OneERP+でデータを中心に据えた経営の実現を目指す

データドリブン経営が目指す「未来予測型」への進化

OneERP+によって目指すデータドリブン経営を具体的に示します。まず経営層へのレポーティングにかかる時間の大幅な短縮です。従来は部門間、あるいは部門内の職階ごとに多くの段階を踏むバケツリレーのような状況だったため、報告まで数週間かかっていました。データをリアルタイムで集計し、データアナリストを介して分析し打ち手を提言することで週単位どころか時間単位、数十分単位で済ませられるようになると考えています。多くの時間と工数を無くし、迅速な経営判断につなげます。

戦略策定の時間を大きく増やせる効果も見込んでいます。従来の経営会議では各領域の報告が大半を占め、経営層が戦略策定・検討に充てられる時間は全体のわずか20%程度でした。リアルタイムでデータを共有し、質問をその場で回答する方法に改めることで、戦略策定・検討の時間を従来の20%程度から80%に増やせます。

多くのデータの量や種類を確保し、様々な活用法を備えることで未来予測型の経営を実現します。過去ではなく、未来を起点とした経営に進化することが企業の真価を磨くのだと考えています。

オペレーショナルエクセレンスの追及も欠かせず

拠点ごとに運用している業務を標準化することで、品質とスピード、効率を高められるとみています。従来は拠点や部門、グループ会社ごとにサイロ化した業務やITを個別最適で運用していました。これらをグローバルに全体最適を促すように配置し、Fit to Standard(標準化)を徹底したいと考えています。

データドリブン経営を実践するための課題

上述した変革の果実を得るため、OneERP+を進めるにあたって3つの方針を掲げました。「標準化」「シンプル化」「グローバルワンインスタンス」です。これらを形にするまでにはいくつもハードルがありました。

ルールやシステム、プロセスを標準化し、シンプルにして、グローバルで統一した仕様にすることがデータドリブン経営の実効性を高めるのに欠かせません。ただ、ものすごく抵抗があるな、というのは変革に着手する前から予想していました。

様々な声を想定しつつ、大原則であるべきは「使えるデータをつくることが最大の目的である」ことでした。データドリブン経営をするために必要なのは言うまでもなくデータです。データが無いから、データを集められるあり方に合わせてプロセスを再設計するしかありません。データの塊を得ることを最優先にする、というぶれない大方針をまずは関係者間で共有することからスタートしました。

● データドリブン経営の実践へ組織を再編

一番の迷いがあったのはグローバルワンインスタンスです。グローバル共通のデータ基盤を整えるということは、ビジネスの基本となるヒト・モノ・カネを示すデータ、いわゆるマスターデータも統一する必要があります。徹底的に議論を重ねました。最終的には「完全にできるまでは相当の時間がかかる。まず一歩踏み出さないと中途半端に終わり、何もできなくなる」と腹をくくって、推進することを決めました。

実効性を担保するため、組織再編に踏み切りました。販売管理、購買、会計など業務ごとにそれぞれどうあるべきかをグローバルでマネジメントをするDPO(データ・プロセス・オーナー)やDPL(データ・プロセス・リーダー)を置き、権限と責任を明確にしました。

そして、CEO(最高経営責任者)やCFOなどで構成するステアリングコミッティ(運営委員会)を経営上層部に設置し、DPOやDPLの「後ろ盾」として機能するようにしました。大きな制度改正はトップダウンで決める、と腹をくくって推進することが、変革のスピードと実効性を高めることにつながると感じています。

● 「データ」と「評価」でガバナンスをより強固に

大きな変革を実行する際、グローバル展開する企業の共通の悩みは海外拠点のガバナンスではないでしょうか。富士通も共通の悩みを抱えています。解の一つはデータを共通言語として、客観的な数字や傾向をもとに同じ目線で議論をすることです。

データのほかに重要なのは評価制度です。富士通ではグローバルポスティング制度を導入したり、グローバル統一の評価制度を整えたりして、国内外の評価制度を同じルールにしてきました。グローバルで評価制度を統一し、なおかつあらゆるデータを同じ基盤でつなぐことで、必然的にガバナンスも効いてくると信じています。まだ道半ばですが、目指すべき姿ははっきりとしています。

● プロセスマイニングとRPAで変革の「生みの苦しみ」を和らげる

大きな変革を推進すれば、当然ながら業務プロセスに大きな影響を及ぼします。変革の生みの苦しみをなるべく減らし、業務プロセスの凸凹をならす施策も必要になると考えていました。

ファイナンス部門で導入したのはプロセスマイニングとRPAです。プロセスマイニングによって、業務プロセスに潜在している見直しや自動化が必要なボトルネックを把握しやすくなります。また、プロセスを継続して監視することで改善レベルを定点測定することができます。さらに、RPAで代替できる業務プロセスにはRPAを適切に組み込むように努めました。

● ファイナンス組織を「データドリブン経営仕様」に変革する

データドリブン経営の実践に向け、ファイナンス組織の変革にも取り組みました。2023年4月に本格的に立ち上げたのがFP&A(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)部門です。

CFO傘下の組織として予算管理や決算作成を担う従来の財務経理ではなく、データ分析を通じた業績予測や経営・事業戦略の立案を手がけます。各事業部にFP&Aを置き、それぞれが「疑似CFO」として事業計画の策定や進捗、コスト抑制などをマネジメントします。

OneERP+とヒト・組織の変革はセットです。両輪をスムーズに回すことで、データドリブン経営の土台はより分厚く、強固になると確信しています。FP&Aだけではありません。CoE(センター・オブ・エクスパティーズ)によってガバナンスの構築や戦略を立案する機能を磨く。シェアードサービスによってグローバルで徹底したオペレーショナルエクセレンスを追求する。機能や役割をはっきりさせてそれぞれの専門性を高めていく、というあるべき姿に向けて動き出したのは、小さいですが着実な一歩だと考えています。

● AIでデータドリブン経営を加速する

データドリブン経営の質を高めるには、AIの活用も欠かせません。

富士通ではAIを売上予測に使っています。経営判断を支援するマネジメントダッシュボードで、売り上げや商談パイプラインの実績、推移など財務のKPIをリアルタイムで確認しています。こうしたデータを基に、AIによって受注の着地ラインを予測し、近い将来の見通しを立てるのに役立てています。

財務・非財務の因果関係の検出にも取り組んでいます。非財務指標と、収益性や成長性といった財務指標がどのように相関しているか、AIによる分析を進めています。非財務指標のさらなる充実を図りつつ、財務指標との因果関係を明らかにすることで、企業価値向上への次の一手をより素早く、高い確度で打ちやすくなります。

AIによる洞察・シミュレーションを巡っては、ヒトがいかに解釈して価値を付け、意味をもたらすかがカギとなります。特にCFO領域では「説明できるAI」であることが極めて重要です。ヒトもAIの技術革新のスピードに「追い付き追い越せ」の覚悟で能力を磨き続けないといけないと日々、自戒しています。

4. おわりに

富士通の変革は道半ばです。変革の道筋はくねくねと曲がっていくのは間違いありません。変化の時代において、最終的なゴールには永遠に届かないかもしれません。一方で、ゴールを目指して変革し続けなければ、持続的な企業価値向上は実現できないとも感じています。

CFOの役割は「企業価値を高めていく」ことに尽きます。株価を上げる、サービスや事業を伸ばすことだけが企業価値向上の目的ではありません。社会から「いい会社だ」と評価される度合いをもっと上げていくことを進化の起点とし、「何をすれば一番企業価値が上がるだろう」との思考を常に中心に据えて発想することが、CFOに限らず、経営層には重要ではないでしょうか。

富士通では「データドリブン経営の実践」こそ、今やるべき企業価値向上の手段であると考え、トップダウンで一歩ずつ変革を進めています。まだまだ泥臭く、試行錯誤しながら進めている途中です。私たちの実践知や課題をお客様と共有することで企業価値向上に少しでも貢献できるよう、今後も変革を続けていきます。データドリブン経営を磨き、持続的な企業価値向上を実現する旅に、ともに挑み続けましょう。

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