パーパス軸・経営主導が照らす「シン・DX」の価値創造

Article|2024年8月5日

この記事は約5分で読めます

「デジタル・ダーウィニズム」の潮流がグローバル社会・経済を覆っています。チャールズ・ダーウィン氏を代表する自然学者が適者生存をもとに進化論を説いたように、不可逆的なテクノロジーの進化への対応に遅れた企業は加速度的に競争力を落としかねない世界が急速に広がりつつあります。

富士通はテクノロジーを生み出す企業として、またテクノロジーを活用する企業として、国・地域や部門の枠を超えたデジタルトランスフォーメーション(DX)を急速に進めています。DXを持続可能な成長につなげるため、全社的な変革や新たな成長領域の育成にも取り組んでいます。

本レポートでは富士通 執行役員 EVP CDXO(最高デジタル変革責任者)兼CIO(最高情報責任者)の福田譲が、富士通でのDXの実践を通じて得た課題や効果を包括的に示します。富士通とともにDXを戦略的に積み上げ、未来志向で企業価値向上への旅に踏み出しましょう。

本レポートの一部を抜粋してご紹介します。全文は以下よりPDFをダウンロードしてご覧ください。

DXの実践を阻む課題とは

DXの本質は「データやデジタル技術を使って、顧客視点で新たな価値を創出する。そのためにビジネスモデルや企業文化なども変革する」と言えるでしょう。生成AI(人工知能)のようなテクノロジーを使って「何かできないか」ではなく、「何をするために」テクノロジーを生かせるか、そのためにどんな変革をすればいいか、といった発想がDXの実践には欠かせません。富士通のDXの歩みはまだ道半ばですが、まずは今までの取り組みを振り返り、DXの実践を阻む課題を読者の皆様と共有します。

時計の針を2020年前後に巻き戻します。当時の富士通は「DXをやるぞ」との狼煙をあげていたものの「富士通がDXを通じて達成したい姿」が必ずしも明確ではありませんでした。グローバルに散らばる各国・地域の事業データをタイムリーに把握できない、グローバル拠点やグループ会社へのガバナンスも十分とは言えない、従業員のエンゲージメントが低い。DXは本来、あるべき姿を実現する手段であるはずなのに、「DXをすることが目的」に陥っていたのが一番の課題でした。

テクノロジーをエンジンに「パーパス軸・経営主導」でDXを進化する

DXで目指す会社の未来像の第一歩を社内外に打ち出したのは2020年5月です。富士通はグループのパーパスとして「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」と定めました。パーパスができたことで、あらゆる変革の道標を定めたのです。

パーパスを定めたことで、DXによって目指すべき富士通の未来像がはっきりしました。なりたい姿と現状のギャップを埋めるため、聖域を設けず変革を進めることをDXの変革対象に定めました。そのために実践しているのが4領域の変革、Customer(=CX、事業)、Employee(=EX、人・組織・カルチャー)、Operation(=OX、オペレーション)、Management(=MX、マネジメント)のトランスフォーメーション、4Xです。4Xとパーパスドリブン経営、デジタルやデータなどIT改革関連で合計約150のテーマを洗い出し、3か月ごとに全体把握、分類、優先順位付けをして順次、変革を進める体制を整えました。

パーパスを軸にデジタルやデータで「4X」を有機的につなげることがDXを進化させる
パーパスを軸にデジタルやデータで「4X」を有機的につなげることがDXを進化させる 
(出典)Ridgelinezの資料を基に作成

4Xがぶつ切れ状態では意味がありません。ポイントは2つあります。1つ目はこれらの改革を有機的につなぎ、変革の好循環を回すことです。そのための潤滑油であり、全社をパーパスに向かわせるエンジンとなるのがデジタルやデータ、ITです。2つ目は、これらの改革を経営主導で強力に進めることです。同時多発的に変革を進め、「今まで」をベースに最適化してきた会社や経営の仕組みを「未来」志向で最適化し直すこと。すなわち、経路依存性の罠から抜け出すことがDXを力強く進めるカギとなるのです。

One Fujitsuプログラムで全社の仕組みを「未来」志向に最適化

会社や経営の仕組みを未来志向に最適化するために主要プロジェクトとして立ち上げたのがOne Fujitsuプログラムです。富士通グループの持続的な成長と収益力の向上を目的とし、「リアルタイムマネジメント」「データ化・可視化」「ビジネスオペレーションの標準化」の3つを重点施策に据えました。

One Fujitsuを基盤として目指すのは「予測型経営」への転換です。デジタルを活用し、データを統一することで最新のデータを経営から現場まで、グループやグローバルを横断して同じように使えるようになります。予見可能性を高めるAIを経営に組み込むこともできます。予測型経営への進化こそDXを深化させ、企業の真価を磨くのです。

ITシステムを4象限にマッピング

全社をパーパスに向かわせるエンジンとしてデジタルやデータ、ITを最大限活用するにはまず、どこにどんなシステムがあり、どれだけコストがかかっているか、どんな役割を果たしているかを明確にする必要があります。富士通には2021年4月時点で4,000を大きく超える社内ITシステムが乱立していました。現在までに1,000以上のシステムを廃止・統合してきましたが、まだまだ膨大なシステムが残っているのが現実です。そこで、およそ2年かけて富士通グループにはどんな業務にどんなシステムが使われているか、331の業務ブロックごとに4象限に定義しました。

縦の軸は「差別化業務」と「基本業務」に区分け、横の軸は「グローバル標準」と「ローカル最適化」に分類します。富士通の既存のシステムは9割が「差別化業務」で「ローカル最適化」と分類されましたが、全体の7割は「基本業務」で「グローバル標準」に改められるのではないかと考えています。現在、ITシステムごとに「投資」「終息」「強化」と将来の戦略を立て、全体のロードマップを作って仕分けを進めています。まだまだやるべきことはたくさん残っていますが、目指すべき道のりは明確です。

業務の標準化は業務部門が行うべきもの(IT部門の責務ではない)

One Fujitsuを実践するための組織も大きく見直しました。まず、CEO(最高経営責任者)、CFO(最高財務責任者)、CDXOなどで構成するステアリングコミッティ(運営委員会)を経営上層部に設置し、DX推進のかじ取りを経営トップ主導でやることを明確にしました。さらに販売管理や事業管理、購買や会計といった業務ごとにDPO(データ・プロセス・オーナー)やDPL(データ・プロセス・リーダー)、SDO(サービス・ドメイン・オーナー)を置き、事業部門やリージョン、グループ会社ごとにはDXO(DXオフィサー)を選任し、事業や地域、グループ横断でデータと業務プロセスの標準化を進めるようにしました。

業務側に標準化を「自分事」と捉えてもらうように体制を整えた
業務側に標準化を「自分事」と捉えてもらうように体制を整えた 
(出典)富士通作成

グローバルで統一した標準化を進めるのは困難な道のりです。変化に納得しないリージョンには経営主導で、地域独自のやり方よりグローバル標準の方がなぜ優れているのか、論理的に正しいデータを基に説明するように徹底しています。ガバナンスをきかせるためにも経営主導でけん引することが重要です。

多くの日本企業は「業務の標準化をIT部門に担わせる」プロジェクト体制を敷き、苦労しているように思います。業務の標準化は業務部門自身が行うべきものです。変革を不断に続けることが、グローバル標準の業務システムを形作る要諦と考え、取り組んでいます。

富士通自身の改革の実践知を「統合知」に

グローバル展開する日本企業としていち早くDXに取り組んできた実績と効果、クリアすべき課題をお客様の課題解決に役立てられないか。そう考えて始まったのが富士通自身のDXの実践知を体系化してお客様の課題解決を支援する「xF(クロスエフ)」です。

富士通の価値は、自分たち自身の課題やそれらへの対処・実践知をもとに課題提起や解決案を考え、結果を出すためにとことん伴走することです。富士通の経験をリアルタイムで、成果が出ていること、まだ不十分なことを余すことなくお伝えすることが、地に足の着いた伴走に繋がると考えています。

非連続な時代において、社会やビジネスに関わる課題は複雑さを増しています。複合的な課題を解決するには、志を同じくする企業同士が連携して統合知を大きくすることが欠かせません。その先に信頼ある、持続可能な社会が広がると信じています。

おわりに

DXの第一歩となるのは人を出発点にした変革です。行動変容を起こすために、よりどころとなるのはパーパスです。自分たちが実現したい姿であるパーパスに向かって従業員に変革を浸透させるためには、まず経営トップ自らが変革を体現し、対話や発信を重ね、変革の先にある未来を共有する姿勢が欠かせません。その先に、現場発の自発的な変革の波が全社に広がるうねりとなって、「真」に「信」頼を「深」める「シン・DX」を実現できるのです。

富士通のDXの道のりはまだ半ばです。私たちが実践し、培ってきたノウハウや課題をお客様と共有することで、よりよい社会の発展と日本企業の価値向上に少しでも貢献できるよう、DX企業として、お客様のサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)パートナーとして、今後も変革を続けていきます。

富士通の社内IT変革リアルケース 
~全社のITガバナンス編~

富士通はITにおけるヒト・モノ・カネを国内海外含め全社で最適化するため何に取り組んだのか。
経営とITの連動、IT組織再編、予算権限管理の見直し、IT資産管理等、その全貌をご紹介するWebセミナーを開催します。

10月3日(木)10:00~11:00
メインプレゼンター:福田 譲 執行役員 EVP CDXO 兼 CIO

木製パズルピースを組み立てている手
木製パズルピースを組み立てている手

関連コンテンツ

富士通が考える、データドリブン経営を実現する高度なプロセスマイニングとは
~Celonis Celosphere 2023キーノートより

自社の業務改革を進める上で注目が高まる「プロセスマイニング」。富士通はどのように考え全社改革を進めているのでしょうか。Celonis Celosphere2023 初日のキーノートにて、当社CIOの福田譲が説明した改革のポイントについてご紹介します。
富士通株式会社 福田 譲

4,000以上も乱立する社内ITシステムの呪縛から解放せよ!富士通が進めるIT業務改革とは

社内ITシステムのサイロ化は、データ活用の観点からも企業に大きな弊害をもたらしますが、グローバル規模のシステム統合となると足踏みをする企業も少なくありません。富士通もグループ全体で個別最適に構築された社内ITシステムが4,000にも達していました。そこで取り組んだのがそれら点在するシステムの統合とその先にあるグローバルなIT業務プロセスの改革です。責任者に進め方の要諦を聞きました。
富士通株式会社 阿部 功一 青木 克憲